平成27年10月、公的年金制度に「被用者年金一元化」という大きな動きがありました。
それまでの公的年金は、国民年金と厚生年金は厚生労働省。国家公務員・地方公務員・私立学校教職員の年金は各共済組合が所管をしていました。
公的年金でも種類ごとに所管が異なるのは不合理ということで、平成27年10月に被用者年金一元化法が施行されています。
法律上、公的年金は大きな一つの枠の中にまとめられ共通化された部分も多々ありますが、一元化後も別々に行っている部分もあります。
その一つが、これからご紹介する年金払い退職給付です。
年金払い退職給付は退職等年金給付と表記されることもありますが、この記事では年金払い退職給付に統一します。
また、年金払い退職給付の種類としては、公務上の障害を支給事由とする公務障害年金や、公務上の死亡による公務遺族年金もありますが、この記事では退職を支給事由とする退職年金についてお伝えしていきます。
目次
年金払い退職給付【退職等年金給付】が生まれた背景
一元化前、国家公務員・地方公務員・私立学校教職員(三共済)の方々に支給されていたのは退職共済年金です。
金額の計算方法は会社員の方に支給される老齢厚生年金と概ね同じですが、年金の名称は異なっていました。
また三共済で特徴的なのは、退職共済年金の上乗せとして「職域加算」という名前の年金が支給されていたことです。
職域加算の金額は、共済組合に20年未満の加入で退職共済年金の1割、20年以上の加入で2割になります。
職域加算は、会社員の方が受け取る厚生年金基金などの企業年金に似ていますが、企業年金はすべての会社員が受け取れるわけではありませんし、受け取れるとしても金額はまちまちです。
一方、三共済に加入していた方は自動的に1割または2割の職域加算がついています。
こうした不公平感が契機となって、被用者年金一元化が行われたという意見もありますが、実際、職域加算は被用者年金一元化とともに廃止になっています。
しかし、職域加算がなくなると、企業年金などを持つ会社員の方よりも不利になってしまいます。
そこで、職域加算をなくす代わりに設けられたのが年金払い退職給付です。
職域加算と年金払い退職給付の計算対象期間
一元化を契機に職域加算の制度は廃止されましたが、給付そのものは残っています。
したがって、一元化前の平成27年9月までの共済組合加入期間については、引き続き職域年金が支給されます。
ただし一元化以降に老齢給付の受給権が発生した場合は、退職共済年金ではなく老齢厚生年金として本体部分が支給されますし、同じく職域加算は経過的職域加算という名称になります。
一方、平成27年10月以降の共済組合加入期間について、上乗せになるのが年金払い退職給付です。
一元化の前後に共済組合の加入期間がある方は、老齢厚生年金の上乗せとして、平成27年9月分までの経過的職域加算と、平成27年10月以降の年金払い退職給付が合わせて支給されます。
年金払い退職給付の仕組み
年金払い退職給付の位置づけ
一元化前に支給されていた職域加算は、退職共済年金と共に公的年金という位置づけでした。
一方、年金払い退職給付は老齢基礎年金や老齢厚生年金とは別個の独立した制度として位置付けられています。
年金払い退職給付は、会社員の方が加入する企業年金(厚生年金基金・確定給付企業年金・確定拠出年金企業型)と同様の位置づけと考えられます。
年金払い退職給付は積立方式
老齢基礎年金や老齢厚生年金は賦課方式を採用しています。
賦課方式とは、現在共済組合に加入している人(現役世代)が、既に年金を受け取っている人の給付を支える仕組みです。
ただ少子高齢化で、今は支える現役世代が少なく、年金を受け取る高齢者が増えています。
そこで、保険料の水準を一定程度に抑え現役世代の負担を過重にすることを避けるとともに、これまでに積立てきたお金を取り崩す方法がとられています。
一方、年金払い退職給付は積立方式です。
積立方式は労使折半で支払ったお金を積み立てて、年金として給付する仕組みです。
積み立てたお金は運用で増やすこともできますが、目減りをしてしまうこともあります。
積立方式は、年金額の減額や掛け金の増額のリスクを伴いますが、そうしたリスクをできるだけ抑制するように掛金が設定をされています。
年金払い退職給付は、自分で支払ったものを自分で受け取る仕組みが基本になっています。
年金払い退職給付の資格の取得と喪失
資格の取得は、共済組合に加入した日に発生をします。一方、資格の喪失は、退職または死亡した日の翌日になります。
基本的には厚生年金と同じですが、年金払い退職給付の資格の喪失時期は少し異なります。
それは厚生年金の資格は70歳に達した日(70歳の誕生日の前日)に資格を喪失しますが、年金払い退職給付は共済組合に加入をしている限り継続する点です。
年金払い退職給付の掛金
掛金を支払う期間
資格の取得と喪失は日単位ですが、掛金は月単位で考えます。
掛金の支払いは、共済組合に加入した日の属する月から、共済組合の資格を喪失した日の属する月の前月までです。
このことを「当月から前月まで」と表現することもあります。
掛金の算出方法と負担割合
掛金は、給与や賞与に掛金率を乗じて算出します。そして、掛金は毎月の報酬や賞与から控除されます。
※ 給与や賞与は共済組合によって呼称が異なります。たとえば地方公務員の場合は、給与を標準報酬月額、賞与を標準期末手当等と称しています。
なお、掛金は労使折半なので、上記の掛金の2倍が実際に共済組合に払い込まれる掛金になります。
年金払い退職給付【退職年金】の支給要件など
年金払い退職給付のうち、退職年金の支給要件などは次のとおりです。
退職年金の支給要件
退職年金は次の3つをすべて満たすことで支給されます。
1 65歳以上であること
2 退職していること
3 1年以上の引き続く加入期間を有していること
退職年金の種類
退職年金は、原則として終身で支給される「終身退職年金」と、支給期間を20年とする「有期退職年金」に分かれます。
なお、割合は2分の1ずつになります。
有期退職年金は、有期退職年金は給付事由が発生した日から6月以内に退職年金の支給の請求と同時に申出を行うことで、支給期間を10年とすること、あるいは一時金にすることができます。
退職年金の失権
終身退職年金と有期退職年金は次の場合、受給する権利を失います(失権)。
終身退職年金 | 受給権者が死亡をした時 |
有期退職年金 | 受給権者が死亡をした時 支給期間が終了したとき 一時金を請求したとき |
退職年金の繰上げ
退職年金には繰上げの仕組みがあります。
退職年金は、1年以上の引き続く加入期間を有していて退職している場合、65歳前に繰り上げて受給することができます。
繰上げは、終身退職年金と有期退職年金を同時に行う必要があり、繰上げをするとそれぞれの額が減額計算されます。
退職年金の繰下げ
退職年金には繰下げの仕組みがあります。
退職年金の受給権者で退職年金の請求をしていない場合、70歳に達する日の前日(70歳誕生日の前々日)までに繰下げの申出をすることができます。
繰下げは、終身退職年金と有期退職年金を同時に行う必要があり、繰下げをするとそれぞれの額が増額計算されます。
退職年金の受給権者が共済組合に加入したとき
退職年金は、退職が支給事由になっています。
したがって既に退職年金の受給権者であっても、共済組合に加入したような場合、年金は支給停止になります。
なお、退職後は終身退職年金と有期退職年金とも年金額が増えます。
※ 有期退職年金は、既に受給した月数を差し引いた残月数が支給期間になります。
退職年金の支給日
退職年金は年6回、偶数月に支給されます。なお、各回に支給されるのは、前々月分と前月分の2か月分です、
年金額
年金額は給付算定基礎額に基づいて計算をされます。ここでは、年金額計算の考え方についてお伝えをしていきます。
給付算定基礎額
給付算定基礎額は次の2つの合計額です。
1 標準報酬月額と標準期末手当等の額 × 各月の付与率
2 基準利率により複利計算した利子の総額
※ 各月の付与率は共済組合の定款で定められます。
※ 基準利率は国債の利回りを換算して共済組合の定款で定められます。
簡単に言えば、納付された掛金に利子を加えた額が給付算定基礎額になります。
終身退職年金額の計算
終身退職年金額は、原則的には次の計算式により求められます。
給付算定基礎額 × 1/2 ÷ 受給権者の年齢に応じた終身年金現価率
給付算定基礎額のうち、終身退職年金に振り分けられるのは1/2です。なお、共済組合の加入期間が10年未満の場合は、1/2ではなく1/4になります。
加入期間が短い方は、退職年金が減額をされていることを意味しています。
終身年金現価率は、終身にわたり一定額の年金額を受給する場合の、1年あたりの金額を求める係数です。
終身退職年金は繰上げや繰下げがあるので、受け取り開始年齢が60歳~70歳と幅広くなっています。
そのため、受給権者の年齢に応じた終身年金現価率が共済組合の定款で定められています。
たとえば、60歳で受け取り始めると、受け取りの年数が長くなります。したがって、1年あたりで受け取れる金額は少なくなります。
有期退職年金額の計算
給付算定基礎額 × 1/2 ÷ 支給残月数に応じた有期年金現価率
給付算定基礎額のうち、有期退職年金に振り分けられるのは1/2です。なお、共済組合の加入期間が10年未満の場合は、1/2ではなく1/4になります。
加入期間が短い方は、退職年金が減額をされていることを意味しています。
有期年金現価率は、一定期間に一定額の年金額を受給する場合の、1年あたりの金額を求める係数です。
有期年金現価率は繰上げや繰下げがあり、支給月数も複数パターン(20年・10年・一時金)あるので、支給残月数に応じた有期年金現価率で金額が算出されます。
なお、有期年金現価率は共済組合の定款で定められています。
まとめ
この記事では、年金払い退職給付【退職等年金給付】のうち、退職年金のあらましをお伝えしてきました。
年金払い退職給付は、共済組合に加入する方を対象にした制度で、平成27年10月の一元化を契機として生まれた新しいものです。
共済組合の方にはそれまで職域加算という年金がありましたが、会社員から見たら不公平感が強い制度ということで、一元化を契機に廃止になっています。
しかし、職域加算がなくなると企業年金などを有する会社員と比べると不利になってしまうということで、新たに誕生したのが年金払い退職給付です。
そのため、職域加算と年金払い退職給付では大きな違いがあります。その違いの最も大きな部分としては、積立方式があげられます。
この記事でもご紹介した通り、積立方式は自分で支払ったものを自分で受け取る仕組みです。
積み立てたものの中には、掛金だけでなく運用による利子があり、利子は運用の成果により変わります。
そのあたりを見越して年金払い退職給付は設計されているのでリスクは少ないのは確かですが、かといって年金払い退職給付で用いる各種数値は共済組合が定款で定めています。
今後の財政状況によっては、掛金の額が引き上げられたり、給付の額が引き下げられてしまう可能性も皆無ではありません。
概ね安心できる年金払い退職給付ですが、加入者の方は観察する習慣をつけておくのも大切なのかもしれません。