自営業の方が加入する国民年金(国民年金第1号被保険者)から支給される公的年金は老齢基礎年金。
老齢基礎年金の支給開始は原則65歳で、金額は最高でも年額約80万円です。
老齢基礎年金は終身で支給されるとはいえ、老後を賄うには少しばかり心もとない金額です。
そのため第1号被保険者の方にはいくつかの上乗せ制度が認められていますが、特に効果的と思われるのが国民年金基金とidecoです。
そこで、この記事では国民年金基金とideco(イデコ)の比較をしていきたいと思います。
また、このサイトは「50歳台で考える老後のお金」がテーマなので、50代は国民年金基金とidecoのどちらを選ぶべきか。
私見ですが、そのあたりもお伝えしていきたいと考えています。
目次
国民年金基金とidecoの比較 法律
国民年金基金 | ideco | |
根拠法 | 国民年金法 | 確定拠出年金法 |
国民年金基金とidecoは根拠法こそ異なりますが、老齢基礎年金の上乗せとして法律で仕組みが細かく定められていて、民間の生命保険会社が販売する個人年金商品などとは一線を画しています。
国民年金基金は、都道府県ごとに設置された「全国国民年金基金」と、職種別に設立された「職能型国民年金基金」の2種類がありますが、基本的な内容はどちらも同じで、一人の人が加入できるのは一つの国民年金基金に限られています。
ideco(イデコ)は愛称です。
確定拠出年金には、企業型と個人型の2種類があり、個人型につけられている愛称がidecoです。
個人型が始まった当時、加入ができるのは第1号被保険者に限られていました。
国民年金や厚生年金の年金額の抑制に伴い、第1号被保険者以外でも個人型に加入できるようになりました。その制度普及を図るためにつけられたのがidecoという愛称です。
なお、idecoの運営主体は運営管理機関(金融機関など)で、一人の人が加入できるのは一つの運営管理機関に限られています。
国民年金基金とidecoの比較 加入できる人
国民年金基金 | ideco | |
加入できる人 | 国民年金第1号被保険者、国民年金任意加入被保険者 | 国民年金第1号・第2号・第3号被保険者、国民年金任意加入被保険者(※) |
国民年金基金に加入ができるのは第1号被保険者と、60歳以降の国民年金任意加入者です。
会社員・公務員などの第2号被保険者や、第2号被保険者に扶養される第3号被保険者は加入ができません。
確定拠出年金も当初は第1号被保険者のみの加入でしたが、2017年1月に第2号・第3号被保険者も加入できるようになり制度が大きく拡充されています。
※ 従来、idecoは国民年金任意加入者の加入は認められていませんでした。2020年の年金制度改正法成立により、2022年5月以降は国民年金任意加入者の加入も認められることになりました。
国民年金基金とidecoの比較 月額掛金と税制
国民年金基金 | ideco | |
月額掛金上限 | 68,000円 | 68,000円 |
税制(拠出時) | 社会保険料控除 | 小規模企業共済等掛金控除 |
税制(運用時) | – | 非課税 |
税制(受取時) | 公的年金にかかる雑所得 | 公的年金にかかる雑所得 |
※ 記載しているidecoの掛金上限は、国民年金第1号被保険者の金額です。
国民年金基金もidecoも老齢基礎年金の上乗せとして国が後押しをしている制度なので、掛金も多ければ税制の優遇措置もあります。
掛金の上限
掛金の上限は何れも月額68,000円です。
また、国民年金基金とidecoは併用が可能で両方に加入することも可能ですが、この場合は両制度を合わせて月額68,000円が上限になります。
なお、国民年金基金もidecoも老齢基礎年金の上乗せという性格を有しています。国民年金保険料を未納にしていたり、免除・猶予制度を利用している場合は掛金を納めることはできません。
また、老齢基礎年金の上乗せとして、国民年金基金やidecoとは別に付加年金という制度もあります。
付加年金に加入している場合、国民年金基金に加入することはできません。
一方、付加年金とidecoは同時加入が可能で、この場合は両方を合わせて月額68,000円が上限になります。
税制
拠出時
国民年金基金は、掛金の全額が「社会保険料控除」の対象になります。
idecoは、掛金の全額が「小規模企業共済等掛金控除」の対象になります。
何れも所得税や住民税の節税効果が高いというメリットがあります。
ただし、社会保険料控除は「本人または同一生計親族」が支払った掛金が控除できるのに対して、小規模企業共済等掛金控除は「本人」が支払った掛金のみ控除対象になります。
運用時
国民年金基金は加入途中での利払いはないので、特に税制メリットはありません。
一方、idecoは加入者自らが商品を選んで運用をしていくものですが、預金については利子所得、投資信託については収益分配金などの配当所得が発生することがあります。
通常、これらの所得に対しては税が課せられますが、idecoという制度の中で利子や収益分配金が発生しても課税されません。
受取時
老齢基礎年金や老齢厚生年金などの公的年金は老後の所得保障という性格を持っています。
そのため、公的年金の収入がそのまま課税対象になるわけでなく、公的年金控除を差し引いたうえで所得税・住民税が課税されます。
国民年金基金もidecoも公的年金控除が適用されます。
具体的には、老齢基礎年金や老齢厚生年金に国民年金基金やidecoの給付があれば合算して、そこから公的年金控除を差し引くことになります。
国民年金基金やidecoは受取時も税制の優遇措置があります。
※ idecoは年金でなく一時金での受け取りも可能ですが、この場合は「退職所得」になります。
国民年金基金とidecoの比較 運用
国民年金基金 | ideco | |
運用スタイル | 確定給付型 | 確定拠出型 |
受取開始 | 60歳または65歳 | 60歳~70歳 |
国民年金基金の運用スタイル
国民年金基金は将来の受取額と運用利率を設定し、そこから掛金の額を決めるものです。
給付の額を確定させ、そのうえで保険料を設定することから「確定給付型」とされています。なお、この記事を書いている時点での運用利率は年1.5%です。
国民年金基金に加入する場合は、1口目としてA型またはB型の終身年金を選択します。そのうえで余裕があれば2口目以降に加入をします。
2口目以降は、下記から任意で選ぶことができます。
国民年金基金のタイプ
A型 | 65歳からの終身年金(15年の保証期間あり) |
B型 | 65歳からの終身年金(保証期間なし) |
I型 | 65歳から15年の確定年金 |
II型 | 65歳から10年の確定年金 |
III型 | 60歳から15年の確定年金 |
IV型 | 60歳から10年の確定年金 |
V型 | 60歳から5年の確定年金 |
idecoの運用スタイル
idecoは運営管理機関の提示する商品の中から、加入者が選んで運用をします。
拠出する金額は決まっているけど、将来の受取額は運用次第ということで「確定拠出型」とされています。
運営管理機関により異なるものの、提示される商品は投資信託が中心になります。
どうしても損をするのが嫌だという方は「元本確保型」の商品だけを選ぶという選択肢もありますが、それでは老齢基礎年金の上乗せという点では心もとないものです。
なお、idecoの受取開始は加入年数により異なります。
加入期間 | 開始年齢 |
10年以上 | 60歳 |
8年以上10年未満 | 61歳 |
6年以上8年未満 | 62歳 |
4年以上6年未満 | 63歳 |
2年以上4年未満 | 64歳 |
1月以上2年未満 | 65歳 |
idecoは1月以上の加入があれば受け取ることができます。
また、加入期間の長い方は60歳から受取ができますが、受取開始を70歳まで伸ばすこともできます(※)。
※ 従来、idecoの受取開始の年齢上限は70歳でした。2020年の年金制度改正法成立により、2022年4月以降は70歳が75歳へと引き上げられます。
国民年金基金とidecoの比較 その他
国民年金基金とidecoは、老齢基礎年金の上乗せという性格があり、何れも年金という性格を有しています。
つまり国民年金基金もidecoも預貯金ではないので、掛金の支払い猶予や減額の仕組みはあるものの、任意に脱退することはできません。
また、何れも定められた年齢まで受け取ることができないという点も共通しています。
国民年金基金もidecoも預貯金ではなく、老後を支える年金制度なので税制等の優遇措置はありますが、こうした点には注意が必要です。
国民年金基金とideco 50代はどちらを選ぶべきか
ここまで、国民年金基金とidecoの比較ということで、それぞれの概要をご紹介してきました。
では、50代の方はどちらを選ぶべきでしょうか。あくまでも私見ですが、そのポイントをお伝えしていきます。
リスク許容度
投資に対する姿勢として「リスク許容度」という言葉があります。
絶対に損をしたくないというタイプの方は、リスク許容度が低い。
ある程度損は覚悟してもお金を増やしたいという方は、リスク許容度が高いというような言い方をします。
国民年金基金とidecoのどちらを選ぶかという点に関しては、リスク許容度が低い方は「国民年金基金」、リスク許容度が高い方は「ideco」がより望ましいと考えられます。
リスク許容度の高低と年齢に直接の関わり合いはありませんが、50代の方はまだまだ先のことであるとはいえ、そろそろ老後のお金の準備を考える時期です。
老後のお金は絶対に必要なお金であるということを前提にすると、50代の方は、より「リスク許容度」にこだわっても良いと思われます。
老後までの年齢
上記に書いたこととも関連しますが、50代の方にとって老後ははるかに遠い話ではありません。
言い換えると、国民年金基金は確定給付型なので運用できる期間が短いと、掛金が多い割には受取額が少ないという結果になります。
掛金は社会保険料控除が使えるので節税効果は見逃せませんが、期間が短い場合の国民年金基金の加入は一歩立ち止まって考えたいところです。
もちろんidecoにも同じことが言えますが、国民年金基金の運用利率は預貯金よりはるかに高いとしても、資産運用という観点から考えるとそれほど高いものではありません。
あくまでも可能性という域をでませんが、idecoであればそれ以上の収益を目指せる可能性は十分にあります。
私が相談を受けた場合ですが、50代という年齢だけを考えるのであればidecoをおすすめすると思います。
ただ現実にはその方のリスク許容度も考える必要があります。
50代でリスク許容度が高い方にはidecoをおすすめするとしても、リスク許容度の低い方にはもう少し意見を付け加えると思います。
50代でリスク許容度が低い方には、「idecoの掛金額を抑え気味にして、可能であればidecoと国民年金基金を併用する。」になります。
幸い、idecoと国民年金基金は併用することが可能なので、50代でリスク許容度の低い方には良い選択肢になるような気がします。
ご夫婦
国民年金基金とidecoの選択は第一にリスク許容度。そして年齢によるところが大きいと思います。
ただ、それだけではありません。
国民年金基金とidecoは何れも税制の優遇措置はありますが、その仕組みが少しばかり異なっています。
税制についても検討の対象にしたいと思います。
ここでは自営業を営む夫と、家事をしながらも夫を手伝う妻で考えたいと思います。ご夫婦は何れも国民年金第1号被保険者として毎月の保険料を納付しています。
また税金でいえば、所得がある夫が確定申告をして、妻は夫の扶養に入っているとします。
夫も妻も国民年金加入で保険料もしっかりと納付しており、お金の余裕もできてきたので上乗せとして国民年金基金とidecoの加入を考えています。
結論を言えば、夫は国民年金基金とidecoの選択で良いと思いますが、妻は国民年金基金の加入が望ましいといえます。
その理由は掛金拠出時の所得控除です。
前述しましたが、国民年金基金は社会保険料控除で「本人または同一生計親族」が支払った掛け金が控除できます。
一方、idecoは小規模企業共済等掛金控除で「本人」が支払った掛け金のみ控除対象になります。
夫はどちらに加入しても掛金が所得控除の対象になります。
一方、妻の加入が国民年金基金であれば夫の所得に対して社会保険料控除を使える可能性があるものの、idecoは小規模企業共済等掛金控除なので夫の所得から控除することはできません。
国民年金基金とidecoは老後のお金の備えが第一の目的ですが、加入している間の税金の優遇措置もとても大切と言えそうです。
ここでご紹介している事例も50代の方に限った話ではありませんが、現実問題としてこうした制度に加入するのは、ある程度の年齢を重ねて資金に余裕がある方である場合が多いようです。
これからの加入を考えている方は、税金のことも考慮する材料の一つに加えておいてください。
※ 税制は頻繁に見直しが行われます。ご加入を検討される際は、必ずその時点での税制を確認なさってください。
さいごに
この記事では、「国民年金基金とidecoを比較する」をテーマに、あらましですが両制度の比較を行ってきました。
また、比較をしたうえで「50代はどちらを選ぶべきか」について、私見を述べさせていただきました。
老齢基礎年金の上乗せとして、国民年金基金もidecoも魅力的な制度です。
そのため数々のメリットはありますが、反面、預貯金ではなくあくまでも年金制度なので制約もあります。
メリット・デメリット両面を比較して加入をご検討ください。また、制度の仕組みも税制も、その時の最新情報を確認なさった上での加入をおすすめします。
最後になりますが、私も国民年金基金とidecoを比較した時期がありますので、その結果を記しておきたいと思います。
私が国民年金基金とidecoを比較したのは50歳より少し前です。掛金の額もそれほど高額にはできませんでした。
運用できる期間は短い、掛金の額も高額には出来なかった。その条件に基づいて調べると、私の場合、確定給付型の国民年金基金では多くを期待できないことがわかりました。
結果として私が選んだのは、全額をidecoに振り向けるというものです。運用できる期間は約10年ですが、一応は長期投資の部類に入ると思います。
掛金が少額なので決して胸を張れるほどではありませんが、結果として国民年金基金よりもお金を増やすことができています。