国民年金には任意加入という制度があります。
この記事では、国民年金任意加入制度の仕組みと、任意加入を利用するのは得なのか損なのかという点について簡単にお伝えしていきます。
まず、国民年金任意加入制度は大きく分けると2つあります。
1 日本国内に住所を有する60歳以上65歳未満の方
2 日本国籍を有していて海外に居住する20歳以上65歳未満の方
また、これ以外でも昭和40年4月1日以前生まれで老齢基礎年金の受給資格を有していない方が、65歳~70歳で加入できる「特例任意加入」という制度もあります。
ここでは、上記1の「日本国内に住所を有する60歳以上65歳未満の方」に焦点をあて、記事を書き進めていきます。
目次
国民年金の種別
国民年金任意加入制度の仕組みの前に、まずは国民年金の種別についてお伝えしていきます。
国民年金法では、次のとおり3つの種別を定めています。
第1号被保険者
日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満で、第2号被保険者・第3号被保険者以外の方が第1号被保険者になります。
第1号被保険者は自分で国民年金保険料を納付します。
第2号被保険者
会社員・公務員・私立学校教職員の65歳未満の人が第2号被保険者になります。
第2号被保険者は厚生年金保険料などを支払いますが、20歳以上60歳未満については厚生年金保険料などの中に国民年金保険料も含まれています。
第3号被保険者
第2号被保険者に扶養をされている20歳以上60歳未満の配偶者です。
第3号被保険者は自ら国民年金保険料を支払っていませんが、支払ったものとみなされます。
優先順位
国民年金法では3つの種別を定めていますが、この3つには優先順位があります。
その優先順位とは、第2号被保険者 ⇒ 第3号被保険者 ⇒ 第1号被保険者です。
第2号被保険者になれる人は、第3号被保険者や第1号被保険者にはなれない。
また、第3号被保険者になれる人は、第1号被保険者にはなれないことになります。
国民年金任意加入制度の仕組み1 加入できない人
この記事でご紹介する国民年金の任意加入制度は、日本国内に住所を有する60歳以上65歳未満の方です。
ところでご紹介したとおり、最優先されるのは第2号被保険者であり、第2号被保険者は65歳未満の人となっています。
最近は60歳を過ぎても厚生年金などに加入している人も増えていますが、この方々は第2号被保険者となるので国民年金の任意加入制度を利用することはできません。
国民年金任意加入制度の仕組み2 目的
国民年金任意加入制度を利用する目的は2つあります。
1 60歳になっても老齢基礎年金の受給資格がない
2 60歳の段階で老齢基礎年金の受給資格はあるもののさらに積み増しをしたい
1については、平成29年8月以降、国民年金や厚生年金の合算などで10年以上あれば受給資格が生まれることになっています。
平成29年7月までは「25年ないと年金はもらえない」と言われていましたが、現在、受給資格を得るためのハードルは低くなっています。
しかし、それでも10年なければ老齢の年金は受け取れません。
そのために設けられたのが国民年金任意加入制度なので、受給資格を得たい方は65歳まで国民年金任意加入制度を利用することができます。
2については、10年以上あれば受給資格を得ることができます。しかし、10年の加入では無年金は避けられても低年金になってしまいます。
老齢基礎年金を積み増ししたいという方も、国民年金任意加入制度を利用することができます。
ただし、老齢基礎年金には満額という考えがあり、積み増しできるのも満額までとなります。
たとえば国民年金は20歳以上60歳未満が強制加入期間ですが、40年間すべて国民年金保険料を納付すると65歳から満額の老齢基礎年金を受け取ることができます。
23歳から60歳まで37年間国民年金保険料を納付した方がいたとします。
こんな時に利用できるのが国民年金任意加入制度ですが、上限40年という制約があるので加入できるのは不足する3年分だけということになります。
国民年金任意加入制度は得か損か
国民年金任意加入制度は得か損かについては、2つの視点が考えられます。
一つは税制で、もう一つは受給総額です。それでは、それぞれの得か損かについて考えていきます。
国民年金任意加入制度は得か損か1 税制
国民年金保険料は、全額が社会保険料控除の対象になります。
年度によっても異なりますが、1年任意加入することで支払う国民年金保険料は約20万円なので、ある程度の節税効果を見込むことができます。
所得が多い方で、相当額の所得税や住民税を支払っている方に、社会保険料控除が使える国民年金の任意加入は魅力的かもしれません。
ただ逆に言えば、所得が低くて所得税や住民税の支払いが僅かな方や、支払っていない方には、それほどのメリットはありません。
また、普段の生活が厳しい中にあっての国民年金保険料の負担は、さらに生活を苦しくしてしまいます。
節税効果を得たい方にとって国民年金任意加入制度は得と言えそうですが、そうでない方にとっては損とは言えないまでもあまりお勧めはできません。
国民年金任意加入制度は得か損か2 受給総額
老齢基礎年金は、65歳から終身で受け取ることができます。
長生きをすれば、支払った国民年金保険料よりも、受け取る老齢基礎年金の受給総額は高くなります。
では、その損益分岐点はどのあたりにあるのでしょうか。
まず老齢基礎年金の満額は40年の加入で約80万円になるので、1年任意加入すると老齢基礎年金がどの程度増えていくのかが分かります。
1 老齢基礎年金の満額約80万円 ÷ 40年 = 1年間任意加入した場合の老齢基礎年金2万円
2 国民年金任意加入制度を1年間利用したときの国民年金保険料約20万円
3 任意加入の損益分岐点 20万円 ÷ 2万円 = 10年
今後、年金額は抑制され、国民年金保険料が値上がりする可能性もあるので若干伸びる可能性はありますが、現在、支払った国民年金保険料は約10年で元がとれます。
老齢基礎年金のスタートは65歳なので、概ね75歳で支払った国民年金保険料が回収できることになります。
ところで、厚生労働省が発表している平成29年の簡易生命表を確認すると
65歳の男性の平均余命 19.57年
65歳の女性の平均余命 24.43歳
65歳の段階で見ると、男性は84歳~85歳。女性は89歳~90歳まで生きるということになります。
あくまでも統計なので一人一人に当てはめることはできませんが、約75歳で元が取れる国民年金の任意加入制度は利用したいところです。
おかしな言い方ですが、75歳までは頑張れそうという方にとって国民年金の任意加入制度は得になるといえそうです。
国民年金任意加入制度は得か損か3 付加年金
国民年金の任意加入制度を利用する方には、ぜひとも付加年金の利用をおすすめします。
付加年金は老齢基礎年金の上乗せ制度で、国民年金保険料を納付している方は、同時に利用することができます。
この付加年金は得か損かでいえば、圧倒的に得する可能性が高いといえそうです。
老齢基礎年金の上乗せとして付加年金を受け取る場合は、国民年金保険料とともに付加保険料を納付する必要があります。
では、1年間国民年金任意加入制度を利用した場合の、付加保険料と付加年金の額をお示ししたいと思います。
付加保険料月額400円 × 12月 = 支払う付加保険料合計 4,800円
付加年金月額200円 × 12月 = 1年で受け取る付加年金 2,400円
付加保険料を4,800円納付すると、65歳からの老齢基礎年金の上乗せとして付加年金が2,400円受け取れる。
付加年金も老齢基礎年金と同様終身で支給されるので、65歳と66歳の2年間で支払った付加保険料が回収できます。
金額的に高額とは言えませんが、安全確実で2年で回収できる金融商品はありません。
国民年金の任意加入制度を利用する方は、上乗せとして400円の付加保険料も納付することをおすすめします。
まとめ
この記事では、国民年金任意加入制度の仕組みと得か損かを簡単にお伝えしてきました。
特に得か損かについては、税制と受給総額の視点からお伝えをしてきました。
まず、税制についてはある程度の所得税や住民税を納付している方には節税効果があるので得する場合が多いといえそうです。
また、受給総額について75歳くらいまでは頑張れそうだという方にとっては得だといえそうです。
ただ、そうはいっても支払いが難しくなってしまうこともあると思います。
国民年金の任意加入制度には、第1号被保険者の方のような免除とか猶予という制度はありません。国民年金の任意加入制度は、国民年金保険料を納付するという前提があります。
もっとも国民年金の任意加入制度は、その言葉のとおりあくまでも「任意」です。
その都度の手続きは必要であるものの加入するのも脱退するのも任意なので、自分で決めることができます。
年金相談をしていると、年金を増やす方法はないかというご質問を受けることがあります。
そのとき、一番おすすめするのは「60歳以降も厚生年金の加入を続ける」ということです。
ただ現実に厚生年金の加入が難しい方もいます。そこで、おすすめするのが国民年金の任意加入制度の利用です。
やはり、公的制度には数々のメリットがありますし、国民年金の任意加入制度は任意なので自由度も高いというメリットがあります。
加入するかしないかは別として、老後の年金を増やしたいと考える方は、まず国民年金の任意加入制度を検討されることをおすすめします。