自営業の方と会社員の方では加入している年金制度が異なります。
自営業が加入するのは国民年金で、老後に支給されるのは老齢基礎年金のみです。
一方、会社員が加入しているのは厚生年金で、老後は老齢基礎年金と老齢厚生年金の両方が支給されます。
自営業と会社員を比較すると、自営業は定年がないのでいつまでも働けるという点がメリットとしてあげられます。
しかし、退職金がない、仕事がなければ収入が途絶えてしまう、心身の不調で仕事を続けられなくなる可能性があるというデメリットもあります。
仕事におけるデメリットや公的年金を考えると、自営業の方の老後のお金の問題はより深刻になる可能性があります。
でも、自営業にも会社員にも老後は必ず訪れます。自営業の方こそ、より積極的に老後の備えを行う必要がありそうです。
この記事では、自営業の老後の備えに役立つであろう、いくつかの制度をご紹介していきます。
自営業の方はこうした制度を活用して、ぜひ、老後の備えをなさってください。
目次
自営業の老後の備え1 公的年金
自営業の方の老後の備えとして絶対に確保しておきたいのが公的年金です。
自営業の方が受け取る老齢基礎年金の支給開始年齢は65歳。
金額は毎年見直しされるとはいえ、一番多く受け取れる人(満額)でも年間約80万円で、この金額から老後不安を訴える方も多いのが実際のところです。
しかし、老齢基礎年金は終身で受け取ることができます。
現状、国民年金保険料を1年分支払うと約20万円、一方、1年支払うことで受け取れる老齢基礎年金は年額で2万円弱。
老齢基礎年金は支払った保険料が10年~11年程度で回収できるという大きな特長があります。
金額の少なさから不安を訴える方は多いものの、やはり公的年金は魅力的です。
ところで、老齢基礎年金を受ける前提として「受給資格期間」があります。以前は「25年かけないと年金はもらえない」と言われていました。
2017年8月より25年が10年でよくなったので、以前と比べたら一生年金が受け取れない「無年金」の人は激減をしています。
それでも、まだ無年金の人はいます。また、10年で受給資格期間ができるとはいっても、10年の支払いでは年金額はとても少なくなってしまいます。
この人たちは無年金ではないけど「低年金」で一生を過ごすことになります。
国民年金は20歳~60歳加入する制度です。
加入期間40年の中ですべて国民年金保険料を納付すると、65歳から終身にわたって満額(約80万円)の老齢基礎年金が受け取れます。
10年の納付だと受給資格は生まれるものの、年金額は約80万円×10年/40年で年額で約20万円。無年金ではないものの低年金になってしまいます。
現在は25年ではなく10年でよくなったので以前よりはハードルも低くなっていますし、何といっても65歳から終身で支給される老齢基礎年金はとても魅力的です。
老齢基礎年金についての大切なポイントは、10年の受給資格期間は絶対に作っておくこと。
そして、老齢基礎年金の額を満額に近づけておくということです。
10年の受給資格期間を作る
65歳から老齢基礎年金を受け取れるようにしておくのは何よりも大切です。
ところで、国民年金保険料は年度ごとに決められていますが、金額は一律で所得が多い方も少ない方も同額の国民年金保険料を支払うことになります。
所得が低い方にとって国民年金保険料は相当の重荷になるので、支払いをしない(未納)方もいます。
でも、これは絶対に避けたいところです。
未納期間が長いと10年が作れず無年金になってしまう、あるいは10年あっても期間が短ければ低年金になってしまいます。
こんなときに利用をしたいのが免除制度です。免除にはいくつかの仕組みがありますが、所得が低い方は「申請免除」を使える可能性があります。
また、免除には「全額免除」と「一部免除」がの2つの種類があります。
全額免除
全額免除は、一定期間国民年金保険料を納めなくてもよいという制度で、支払わないという点では未納と同じです。
しかし全額免除は受給資格期間10年の計算対象になりますし、国民年金保険料を支払った方と比べると金額は少なくなるものの年金額計算もされます。
未納は、受給資格期間も年金額も一切考慮されません。未納と全額免除は国民年金保険料を支払わないという点は同じでも中身はまったく異なります。
一部免除
一部免除制度は少し注意が必要です。
一部免除制度は、言い換えると一部納付制度で、一部の国民年金保険料を支払えば残りの部分が免除されるものです。
国民年金保険料は一定の期間内に納める必要があります。期間内に納付しないと、免除されていた部分も取り消しとなり全体が未納になってしまいます。
一部免除制度は期限内に一部の国民年金保険料を支払うことがとても大切です。
なお、全額免除も一部免除も免除された部分は、10年以内であれば納付できる追納制度もあります。
今は支払えないので免除を利用したという方も、納付できるようになった段階で追納を検討するのもおすすめです。
老齢基礎年金は老後の備えの全部を賄うには心もとないものですが「ある」と「なし」では大違い。
自営業の方の老後の備えの最優先事項は、老齢基礎年金を受け取れるようにしておくです。
老齢基礎年金を満額に近づける
国民年金は20歳から60歳になるまで加入する制度で、加入期間40年の中ですべて国民年金保険料を納付すると、65歳から終身にわたって満額(約80万円)の老齢基礎年金が受け取れます。
たとえば、納付した期間35年だと受け取れる額は年間約70万円(80万円×35年/40年)で満額に約10万円足りません。
このようなときに利用をしたいのが任意加入です。
国民年金の強制加入は60歳で終わるものの、その後65歳までは国民年金に任意加入することができます。
老齢基礎年金を少しでも増やしたい方にとって任意加入は魅力的です。
※ 任意加入は65歳までですが、満額になれば任意加入もそこまでになります。
※ 任意加入に免除はありません。
自営業の老後の備え2 公的年金の上乗せ
老齢基礎年金は満額でも約80万円。終身で支給されるとはいえ、これだけで老後の備えは十分という方は少ないと思います。
自営業の方には、老齢基礎年金の上乗せとしていくつかの仕組みが設けられています。
何れも国が認めている仕組みなので、可能であれば老齢基礎年金の上乗せとして活用したいところです。
ここで、ご紹介する上乗せの仕組みは次の4つです。
① 付加年金
② 国民年金基金
③ 確定拠出年金個人型(iDeCo)
④ 小規模企業共済
老後の備え① 付加年金
付加年金を受け取るためには、前提として付加保険料を納める必要があります。
付加保険料を納めることができるのは、自営業(国民年金第1号被保険者)の方です。
また、先ほどお伝えした60歳~65歳の国民年金任意加入者も付加保険料を納めることができます。
ただし、国民年金第1号被保険者の場合は定められた国民年金保険料を納付していることが条件です。未納の方や免除制度を利用されている方は付加保険料を納めることはできません。
付加保険料の支払いは任意です。入るのも辞めるのもそれぞれ手続は必要ですが、1ヶ月だけでも加入することができます。
付加保険料の保険料額は月額400円です。400円を国民年金保険料に付加して納めることから付加保険料という名前がついています。
では、付加保険料と付加年金の関係はどうなっているのでしょうか。
仮に付加保険料を1年間納付した場合、付加年金がどれくらいになるのかをお示ししたいと思います。
1年間の付加保険料 400円×12月=4,800円
1年間の付加年金 200円×12月=2,400円
1年間付加保険料を納付すると、65歳から受け取る老齢基礎年金の上乗せとして年額2,400円の付加年金が支給されます。
老齢基礎年金と同様、付加年金も終身で支給されるので、付加保険料を支払ったことで受けとれる付加年金は2年で元が取れることになります。
なお、付加年金は老齢基礎年金と一体で支給されます。
仮に受給資格期間が足りないため老齢基礎年金が受け取れない方には、付加年金も支給されません。
また、老齢基礎年金には繰上げや繰下げの仕組みがありますが、付加年金も同じ動きをします。
繰り上げると、老齢基礎年金は減額支給、付加年金も同じ割合で減額支給。繰り下げると、老齢基礎年金は増額支給、付加年金も同じ割合で増額支給になります。
付加年金は金額的に少ないのが難点ですが、言い換えれば付加保険料も少額なのでそれほどの負担はありません。
何より安全確実で2年で元がとれる金融商品は他では見当たらないので、公的年金の上乗せとしては優先して考えたい制度です。
なお、支払った保険料は全額「社会保険料控除」の対象になるので、少しですが節税対策になります。
老後の備え② 国民年金基金
国民年基金に加入できるのは、付加年金と同じく国民年金第1号被保険者と65歳までの国民年金任意加入者です。
国民年金第1号被保険者については国民年金保険料を納付していることが前提で、未納の方や免除制度を利用されている方は国民年金基金の掛金を納めることはできません
国民年金基金は掛金の上限が月額68,000円ととても大きいのが特徴です。
国民年金基金は複数の種類から、自分で選択をします。
基本的なルールとしては、1口目をA型またはB型の終身年金を選びます。
余裕があれば2口目以降を選びますが、A型またはB型の終身年金とⅠ型からⅤ型まである確定年金の中から自由に選択をしていきます。
国民年金基金の主なメリット・デメリットは次のとおりです。
国民年金基金の主なメリット
1 掛金額を大きく設定できるので、老齢基礎年金の上乗せとしての効果も大きい。
2 掛金は全額社会保険料控除が使えるので節税効果が期待できる。
3 全部で7つの種類があり設計の自由度も高いので、老後の備えにも柔軟な設計ができる。
4 確定給付型なので掛金から将来受け取れる年金額を推計できる。
国民年金基金の主なデメリット
1 掛金の支払い猶予や減額はできるものの、年金制度なので任意に脱退することはできない。
2 原則として定められた年齢まで受け取ることができない。
3 付加保険料と合わせて納付することができない。(付加保険料と国民年金基金は選択して加入)
国民年金基金は都道府県ごとに設置された「全国国民年金基金」と職種別に設立された「職能型国民年金基金」の2種類があります。
基本的な内容はどちらも同じですが、一人の人が加入できるのは一つの国民年金基金に限られています。
老後の備え③ 確定拠出年金個人型(iDeCo)
確定拠出年金には企業で加入する確定拠出年金企業型と、個人が加入する確定拠出年金個人型があります。
このうち確定拠出年金個人型には、iDeCo(イデコ)という愛称がつけられています。
iDeCoに加入できるのは、国民年金保険料を納付している国民年金第1号被保険者で、国民年金に任意加入している人は対象外です。
※ この記事を書いている段階では確定ではありませんが、2020年の年金法見直しで2022年5月以降、国民年金に任意加入している人もiDeCoに加入できる可能性がでてきました。
iDeCoは掛金の上限が月額68,000円ととても大きいのが特徴です。
iDeCoは、まずiDeCoを運営する運営管理機関(金融機関など)を一つ選びます。
次に運営管理機関が提示する商品の中から、自分で運用する商品を選びます。商品の中には元本確保型もありますが、最も多いのは投資信託です。
投資信託は元本が保証されているわけではないので、得もありますが損もあります。
受け取り開始年齢は、加入した年数で決まりますが、たとえ1か月の加入でも65歳になれば受け取れます。
また、受け取り開始は70歳まで伸ばすこともできますし、受け取りは原則年金ですが一時金を選ぶこともできます。
拠出する金額は決まっているが、受け取れる額は運用次第で決まっていないのが、確定拠出年金の名前の由来になっています。
iDeCoの主なメリット・デメリットは次のとおりです。
iDeCoの主なメリット
1 掛金額を大きく設定できるので、老齢基礎年金の上乗せとしての効果も大きい。
2 掛金は全額小規模企業共済等掛金控除が使えるので節税効果が期待できる。
3 商品が複数提示され組み合わせも自由なので、老後の備えにも柔軟な設計ができる。
4 付加保険料と同時加入できる、国民年金基金とも同時加入できる(上限は合計で月68,000円)
iDeCoの主なデメリット
1 掛金の支払い中止や減額はできるものの、年金制度なので任意に脱退することはできない。
2 原則として定められた年齢まで受け取ることができない。
3 将来受け取れる金額は運用次第なので老後の備えが予定通りにいかない場合もある。
老後の備え④ 小規模企業共済
①から③までご紹介をしてきたのは、老齢基礎年金の上乗せの年金制度です。
最後にご紹介する小規模企業共済は、小規模企業の事業主などを対象とした制度で、分割払いもありますが基本的には一時金の制度です。
また、①から③までは上限年齢がありましたが小規模企業共済は原則一時金。
つまり小規模企業の事業主の退職金のような性格を有しますので、加入の年齢上限はありません。
また、老齢基礎年金の上乗せ制度とは言っても①から③までとは様相が大きく異なっています。
加入できる条件はあるものの、基本的には老齢基礎年金とも、これまでご紹介してきた上乗せ制度とも連動していない独自の制度設計がなされています。
掛金の額は月額上限7万円。掛金は全額小規模企業等掛金控除の対象になりますので、何よりも節税効果が魅力的な制度と言えそうです。
上乗せ制度のまとめ
自営業の老後の備えは、できれば考えたいところです。
その中で第一におすすめしたいのが付加年金です。付加年金は支払う保険料が低いのが何よりも魅力で、月額400円ならば継続しやすいのではないでしょうか。
ただ、付加年金は金額が低いという決定的な弱点があります。
このときに選ぶのは、確定給付型の国民年基金基金か、確定拠出型のiDeCoになります。
それぞれにデメリットとデメリットがあるので悩むところですが、記事を書いている時点での国民年金基金の運用利率は1.5%。
預貯金よりも高いのは事実ですが、長期運用という前提を考えるとそれほど高いわけでもありません。
結論を言えば、投資の知識がない方は確定給付型の国民年基金基金、投資の知識がある方は確定拠出型のiDeCoといったところでしょうか。
また、国民年基金基金に加入すると、iDeCoには加入できても付加年金に加入することはできない。
iDeCoであれば、国民年基金基金にも付加年金にも加入することができるので、このあたりも選択のポイントになるかもしれません。
なお、付加年金・国民年金基金・iDeCoとともに考えたいのが小規模企業共済です。
付加年金・国民年金基金・iDeCoは原則として年金。
小規模企業共済は原則として一時金。
付加年金・国民年金基金・iDeCoはそれぞれに関わり合いがあるものの、小規模企業共済は別の制度です。
もっとも、国民年金保険料、付加年金・国民年金基金・iDeCoの保険料や掛金、小規模企業共済の掛金を合計すると月額で15万円、年額で180万円を超えてしまいます。
いくら節税効果があるとはいっても、これだけの金額を払うのはとても大変です。
国民年金保険料のお金は確保しつつ、あとは支払える額やバランスを考えて、老後の備えをするのがおすすめと言えそうです。
さいごに
この記事では、国民年金保険料の支払いを前提に、老後の備えとして役に立ちそうな制度をご紹介してきました。
今回、ご紹介したのは国が法律を定め、利用することを後押ししている制度と言えそうです。
老後の備えをしたい、支払えるお金の余裕も多少はあるという方は、ぜひ、この上乗せ制度の活用をお考えになってみてはいかがでしょうか。
また、これ以外では民間の保険商品もあります。
もちろん、民間の保険商品を否定するつもりはまったくありませんが、まずは公的年金により近い制度のご検討をされることをおすすめします。
ただし、ここでおすすめした老後の上乗せとしての公的制度が不向きという方も当然いるはずです。
老後の備えとして老齢基礎年金だけでは不安。でも公的な上乗せ制度を利用することは難しい。
そのような方は、むしろ保険会社などの民間の保険商品をご検討するのも「あり」だと思います。
何れにしても自営業者の方は、可能な限りで構わないので様々な方法で老後の備えをご検討なさってください。