人生100年時代という言葉が普遍化し、多くの方が老後の長さを気にかけるようになっています。
ところで、老後はいつから始まるものでしょうか。
実は「老後」そのものに明確な定義はありません。人によって老後のとらえ方は様々です。
また同じように、老後がいつから始まるのかについても解釈は様々です。
老後は、言葉そのものも、いつからかという始まりにも、はっきりとした決まりごとはありません。
ただ統計資料から、老後がいつから始まるのかを考えることはできそうです。この記事では、いくつかの統計資料から老後はいつからなのかを考えてみたいと思います。
目次
老後はいつから【資料1】高齢社会白書(令和元年版)
高齢社会白書は内閣府により公表されます。高齢社会白書は「高齢社会対策基本法」によるもので国会に提出される年次報告書です。
内容は、高齢化の状況、政府の高齢社会対策の状況、高齢化の状況を考慮した今後の施策などです。
この報告書の中に、平均寿命と健康寿命の比較があります。
男性
平均寿命 | 健康寿命 | |
2001年 | 78.07歳 | 69.40歳 |
2016年 | 80.98歳 | 72.14歳 |
女性
平均寿命 | 健康寿命 | |
2001年 | 84.93歳 | 72.65歳 |
2016年 | 87.14歳 | 74.79歳 |
2001年と2016年を比べると、男性・女性とも平均寿命が延びていますが、合わせて健康寿命も延びています。
これは元気な高齢者が増えていることを示しています。
老後はいつから【資料2】高齢者の日常生活に関する意識調査(平成29年)
内閣府が実施する「高齢者の健康に関する調査結果」は、55歳以上の男女あわせて3,000人を対象にしたものです。
調査は、「高齢者の健康」に関する実態と意識を把握するとともに、今後の高齢社会対策の推進に役立てることを目的としています。
調査項目の一つに、収入がある方を対象にいつまで働くかという設問があり、回答は次の通りとなっています。
65歳未満の回答者のうち、61歳~65歳は働き続ける人90.7%、65歳までに働くのをやめる人6.4%。(2.9%は不明)
65歳以上70歳未満の回答者のうち、66歳~70歳は働き続ける人77.8%、70歳までに働くのをやめる人21.7%。(0.5%は不明)
71歳以上75歳未満の回答者のうち、71歳~75歳は働き続ける人48.4%、75歳までに働くのをやめる人50.8%。(0.8%は不明)
76歳以上80歳未満の回答者のうち、76歳~80歳は働き続ける人27.8%、80歳までに働くのをやめる人71.4%。(0.8%は不明)
80歳以上の回答者のうち、働き続ける人は16.2%、働くのをやめる人82.3%。(1.5%は不明)
老後はいつから【資料3】高齢者に関する定義検討ワーキンググループによる提言
高齢者に関する定義検討ワーキンググループによる提言は、日本老年学会・日本老年医学会により2017年1月に行われています。
提言では「老後」ではなく「高齢者」という言葉を用いていますが、老後がいつ始まるのかの参考になる提言です。
提言によれば、高齢者を次のとおり年齢別に3つに区分しています。
65歳~74歳 | 准高齢者 准高齢期 (pre old) |
---|---|
75歳~89歳 | 高齢者 高齢期 (old) |
90歳~ | 超高齢者 超高齢期 (oldest old , super old) |
3つに区分した理由は概ね次のとおりです。
65歳以上を高齢者とするのに明確な根拠はない。
多くの人が高齢者扱いされるのに違和感を持っている。
10~20年前と比較して「若返り」現象がみられている。
内閣府の調査でも70歳以上あるいは75歳以上を高齢者と考える意見が多い。
※ 日本老年学会とは
日本老年学会は日本老年医学会と日本老年社会科学会の連合体として発足したもので、現在は日本基礎老化学会、日本老年歯科医学会、日本老年精神医学会、日本ケアマネジメント学会、日本老年看護学会も加盟をしています。
※ 日本老年医学会とは
日本老年医学会は元文部科学省所管で、1995年に設立許可により社団法人日本老年医学会となった組織です。
まとめ
この記事のテーマは、「老後はいつからなのかを考えてみる」というものです。
あくまでも私見にすぎませんが、3つの統計資料から老後はいつからなのかを考えてみたいと思います。
最初の高齢社会白書(令和元年版)でわかったのは、平均寿命とともに健康寿命も延びていることです。
現在の健康寿命は男女とも70歳~75歳にあることを考えると、老後の始まりはこのあたりと考えられそうです。
2番目の高齢者の日常生活に関する意識調査(平成29年)でわかったのは、いつまで働く気持ちがあるのかということです。
どの数字を使うのかは悩むところですが、半数の人が働きたい・半数の人が働きたくないと考えるあたりが分岐点のような気がします。
この統計資料で分岐点になりそうなのは、「71歳~75歳は働き続ける人は48.4%、75歳までに働くのをやめる人50.8%」あたり。
この資料からも老後の始まりは70歳~75歳と類推することができそうです。
3番目の高齢者に関する定義検討ワーキンググループによる提言では、74歳までは准高齢者としています。
准には準ずるという意味があります。准高齢者は年齢的には高齢者に近づいているものの、まだ高齢者ではないという意味です。
この資料から、老後は75歳と類推することができそうです。
ところで、私は年金やライフプランの相談を10年以上行ってきています。その中で、お客様から「○○歳まで働くつもりでいる」というようなお話をよく伺います。
私が相談を始めたときは、団塊の世代の方がもう少しで60歳を迎える頃でした。
厚生年金に加入している方であれば年金は60歳から受け取ることができましたし、金額も今よりも多いという特徴がありました。
そのためでしょうか。
当時、会社員の方から聞かれる言葉は「60歳で定年退職する。その後はアルバイト程度はするかもしれないが、退職金と年金で十分に生活できるから無理はしない。」というものでした。
それが数年前からは少し変わってきています。
よく聞くのは「60歳で退職しても、退職金も年金も少ないから65歳までは働かなくてはいけないかなぁ。」というものです。
65歳まで働く覚悟はあるものの、どちらかといえば消極的。働きたくないけど、働かなくてはいけないというものでした。
それが現在では「65歳までは絶対に働く」という意見が主流を占めています。迷う段階ではなく、そうしなければ老後生活が送れないという覚悟が見えています。
さらに、70歳まで働くという意見も、年齢にかかわらず働ける限りは働き続けると仰るお客様も増えています。
私がお会いするお客様が仰る「老後はいつからか」は65歳から70歳までの間にあるように思えます。
それに対して、統計資料から見える「老後はいつからか」は70歳から75歳の間にあるように類推できます。
もちろん、老後についての明確な定義があるわけでもないので、老後はいつからかというのも人それぞれであることは間違いありません。
ただ一つ言えることは、「老後のいつ」がどんどん後にずれていること。
今や65歳ではなく70歳、そして近い将来は70歳ではなく75歳。老後の始まりは少しずつですが遅くなっているようです。
このサイトは「50歳台で考える老後のお金」をテーマにしていますが、現在50代の方の老後は65歳や70歳ではなく、75歳になっているかもしれないですね。