私は10年以上にわたり年金やライフプランのご相談を承っており、これまで5,000人以上のお客様と接してきました。
その中で一定割合でお会いするのが、いわゆる「おひとり様」です。
統計を取っているわけではないので正確ではないものの、お客様全体の2割から3割程度がおひとり様であるように感じています。
おひとり様の割合について男女差はあまりありません。しかし、おひとり様になった理由については、少しだけ異なることがあります。
男性の場合は、過去に結婚したことがない、結婚していたが離婚をして一人になっているという場合がほとんどです。
一方、女性の場合はこの2つの理由に加えて、夫がすでに亡くなり遺族の給付を受けているが加わります。
遺族の給付は女性に有利な面があり、男性は妻に先立たれても遺族の給付を受けることは滅多にありません。
ところで、このサイトは50代の方の老後のお金をテーマにしています。
老後のお金については、老後を迎えるまでの貯蓄、老後に入ってくる収入、そして老後を迎えてからの資金(支出)を総合的に考える必要があります。
このなかで老後に入ってくる収入の柱は公的年金であることに違いはありません。
そこで、この記事では50代のおひとり様に焦点をあて、老後に受け取る年金を増やす方法を、次の3つのケース別にご紹介していくことにしました。
1 国民年金に加入中
2 厚生年金に加入中
3 遺族給付を受給中
目次
ケース1 おひとり様の年金を増やす(国民年金に加入中)
ケース1は、過去に結婚したことがない、あるいは結婚していたが離婚をして一人になり、現在は国民年金に加入をしている人です。
離婚をした方の中には年金分割をして、老齢厚生年金が増えている人も減っている人もいます。
ただ、年金分割をしている人の割合は決して高いものではなく、分割をしていても年金が大きく増減した人はほとんどいないというのが実感です。
ここでは、年金分割を考慮に入れないで書き進めていきます。
さて、国民年金に加入中の人はさらに2つのタイプに分類されます。
一つは、国民年金保険料を支払うのが厳しいほど普段の生活に追われている方。
もう一つは、ある程度生活に余裕があり国民年金保険料の支払いを苦にしない方です。
では、それぞれについて考えていきたいと思います。
国民年金保険料の支払いが厳しい方
最初にご案内をするのは、国民年金保険料を支払うのが厳しいほど普段の生活に追われている方の年金を増やす方法です。
こうした方々にまずお伝えしたいのは、老齢年金の受給資格を作ること、そして老齢年金の額をできるだけ増やすことです。
老齢年金は受給資格がなければ、永久に1円も受け取ることはできません。以前の受給資格は25年だったので無年金の方も一定数はいました。
でも、現在は10年で受給資格ができるので無年金の人は激減をしています。それでも10年なければ無年金のままで一生を送ることになります。
国民年金保険料は1年納付で約20万円にもなります。生活にゆとりがない方にとって、この金額はあまりにも高額です。
なかには諦めて無年金を覚悟する方もいますが、受給資格のハードルは25年が10年と大幅に下がっています。
生活が厳しい方は、ぜひ、国民年金の免除制度をお使いいただくことをおすすめめします。
免除制度には、全額免除制度と一部免除(一部納付)制度の2つがありますが、特に所得が低い場合は全額免除が承認される可能性があります。
何もせず国民年金保険料を支払わないと「未納」になります。未納は受給資格計算の対象になりません。
一方、全額免除は承認を受けて国民年金保険料を一定期間支払わないということで、10年の受給資格期間に算入されますし、将来の年金額計算の対象にもなります。
さらに、免除は毎年7月から翌年6月までを1つの年度として考えますが、状況によって継続して受けることもできるので、それほど手続きが面倒なわけではありません。
国民年金保険料の支払いが厳しい方は、未納にするのではなく免除を利用する。こうしておけば無年金のリスクはかなり軽減されるはずです。
国民年金保険料を支払うのが厳しい場合の年金を増やす方法
受給資格を作る
受給資格を作るために免除制度を活用する
国民年金保険料を支払いができる方
払えるのに払わないはNG
国民年金保険料の支払いができる方にお伝えしたいことは未納にしないことです。
年金制度に対する不信感は確実にあり、国民年金保険料を支払えるのに支払わないという方も、僅かながらですが存在するように思われます。
しかし、国民年金から生まれる老齢基礎年金は65歳から終身で支給されます。その老齢基礎年金の金額の半分は国庫負担、つまり税金で賄われています。
さらに支払った国民年金保険料は、全額が社会保険料控除として使えるので節税効果も見込めます。
民間の個人年金に、ここまでの有利さはありません。
私は基本的にお客様に何かを説得することはありません。
ただ、払えるのに払わないという方に対しては、国民年金保険料の支払いを強くおすすめしています。
公的な上乗せ制度を使う
国民年金保険料を未納にしている方、あるいは免除制度を利用している方は使えませんが、国民年金保険料を納付している方はさらに公的な上乗せ制度を利用することができます。
具体的な上乗せ制度は次の3つです
付加保険料(付加年金)
国民年金基金
確定拠出年金個人型(iDeCo)
それぞれの特性は大きく異なります。
また、付加保険料と確定拠出年金個人型(iDeCo)、国民年金基金と確定拠出年金個人型(iDeCo)は併用できますが、付加保険料と国民年金基金はどちらか一つを選択というように制度間の調整もあります。
ただ、何れの制度も公的な側面が強いためデメリットはあるものの、税制で優遇されるなどさまざまなメリットがあります。
国民年金保険料を納付している方には、さらに公的な上乗せ制度を利用することをおすすめめしています。
他の制度を利用する
国民年金保険料を納付している方には公的な上乗せ制度がおすすめですが、利用が不向きということもあります。
そうした方におすすめなのが他の制度です。
具体的に言えば、NISAや積立NISAの利用です。
NISAや積立NISAは必ずしも老後資産の形成を目的としているわけではありませんが、国が後押ししている制度なので税の優遇措置などがあります。
できれば、老後資産の形成についてはこうした有利なものを利用して作っていきたいところです。
国民年金保険料を支払いができる場合の年金を増やす方法
払えるのに払わないはNG
公的な上乗せ制度を利用する
税制優遇のある他の制度も利用する
ケース2 おひとり様の年金を増やす(厚生年金に加入中)
厚生年金に長く加入する
国民年金と厚生年金ではどちらが有利かというと厚生年金です。そのため国民年金に加入中の方も、可能であれば厚生年金への加入がおすすめです。
さて、厚生年金加入中の方におすすめをするのは、できるだけ厚生年金に加入する期間を長くすること、そして年収を高くすることです。
老齢厚生年金の額は、厚生年金の加入期間の長さと、加入中の年収で決まります。厚生年金の加入期間が長いほど、加入中の年収が高いほど、老齢厚生年金の額は多くなります。
もっとも、年収を大きく増やすのはごく一部の人を除けば難しいと思います。そこで、おすすめをするのが厚生年金にできるだけ長く加入を続けることです。
現在、厚生年金の強制加入は70歳までです。
また、私がお会いするお客様の中には、70歳までは働き続けると仰る方も少しずつ増えています。
「厚生年金にはいつまで加入するのが良いのか」というご質問を受けることがあります。
私は「お体とお気持ちが続くのであれば、厚生年金は長ければ長いほど良いですよ。」とお答えをしています。
厚生年金に加入中の方が老後の年金を増やすための最善の方法は、厚生年金の加入をできるだけ長く続けることです。
公的な上乗せ制度を使う
国民年金だけに加入していた人が受けられるのは老齢基礎年金。
厚生年金だけに加入していた人は、老齢基礎年金と老齢厚生年金を受け取ることができます。
老後の年金については、厚生年金に加入していたほうが明らかに有利です。もっとも、その分、公的な上乗せ制度の幅は狭くなります。
お勤めになっている会社などで、確定給付企業年金・確定拠出年金企業型を導入していれば、老齢基礎年金・老齢厚生年金とともに企業年金も受け取れます。
こうした方は、それ以上の自助努力は必要ないかもしれません。
ただ、企業年金などがない場合も往々にしてあります。そのような方は、やはり上乗せ制度の利用を考えたいところです。
では、具体的な手段は何かというと確定拠出年金個人型、いわゆるiDeCo(イデコ)の活用です。
厚生年金に加入している人の場合、iDeCoへの掛け金の額は高くはありませんが、老後資金に多少の上乗せをすることができます。
また、iDeCoを利用するのが難しい場合は、先ほどご紹介したNISAや積立NISAの利用もおすすめです。
国民年金に加入している方に比べると、厚生年金に加入している方の老後の年金は恵まれているので、老後のお金に対する自助努力の必要性は相対的に低いのは確かですが、可能であれば上乗せのお金は用意しておきたいところです。
厚生年金に加入中の場合の年金を増やす方法
厚生年金への加入期間を長くする
確定拠出年金個人型(イデコ)を活用する
税制優遇のある他の制度も利用する
ケース3 遺族給付を受給中
このケースは、厚生年金に加入していた夫が亡くなり、残された妻が遺族厚生年金を受けている場合です。
夫が亡くなり、妻が遺族となった場合、妻に支給されるのは遺族基礎年金と遺族厚生年金と思われるかもしれません。
ただ、遺族基礎年金については子がいること、子は原則として18歳到達年度末であることが要件です。
たとえば、夫が亡くなった当時の遺族が妻と15歳の子であった場合、子が18歳到達年度末までは妻に遺族基礎年金と遺族厚生年金が支給される可能性がありますが、子が18歳到達年度末以降は遺族基礎年金は支給されなくなります。
夫の死亡時に妻が50代であった場合、遺族基礎年金はわずかな期間で終わってしまう、あるいは最初から遺族基礎年金は支給されないことが多いというのが実際のところです。
さて、遺族厚生年金の仕組みは複雑です。
夫の厚生年金加入歴や、死亡時に加入していた年金制度によって、遺族厚生年金の計算方法も異なります。
この記事では、私がお会いするお客様の中で最も多い事例をご紹介していきます。
結論を先に書くと、この事例でご紹介する妻は厚生年金への加入は慎重な検討が必要になります。
事例
家族構成
夫59歳時に死亡。残された遺族は55歳の妻と、23歳の子。
夫の状況
夫は大学を卒業して就職。平均的な年収で一つの会社に勤めていたが、在職中の59歳で死亡。
生存をしていれば、夫は65歳から老齢基礎年金72万円と、老齢厚生年金120万円を受けられる見込みだった。
妻の状況
妻は短大を卒業後、約10年間厚生年金に加入。結婚退職し、夫死亡時までは国民年金第3号被保険者。
妻は65歳から老齢基礎年金78万円と老齢厚生年金20万円を受けられる見込み。
では、夫死亡後の妻はどのような年金を受けられるのでしょうか。妻の年金は65歳の前後で大きく変化をします。
妻が55歳から64歳までの年金
遺族厚生年金 | 90万円 |
中高齢寡婦加算 | 58万円 |
合計 | 148万円 |
妻自身の年金は、65歳からの老齢基礎年金と老齢厚生年金なので、この段階では支給されません。
夫死亡時、子は23歳なので遺族基礎年金は支給されません。
妻に支給される遺族厚生年金は、夫が受けられるであろう老齢厚生年金120万円の4分の3の額で90万円になります。
妻が遺族厚生年金を受けられる場合で一定要件に該当すれば、妻に中高齢寡婦加算が支給されます。中高齢寡婦加算は定額で約58万円です。
妻は1年間で148万円の年金を64歳まで受け取ることができます。
妻が65歳以降の年金
老齢基礎年金 | 78万円 |
老齢厚生年金 | 20万円 |
遺族厚生年金 | 70万円 |
合計 | 168万円 |
年金には老齢・障害・遺族の3種類の年金がありますが、原則として1種類の年金しか受けられません。(一人一年金の原則)
しかし、65歳以降は一人一年金の原則の例外があり、老齢と遺族の年金を組み合わせることができます。
ただし、組み合わせの仕組みについてはルールがあります。
年金は建物に例えられることがありますが、1階の年金を基礎年金、2階の年金を厚生年金とします。
最初に1階の年金を考えます。
そうすると、基礎という名前の年金は、妻が自身で作った老齢基礎年金しかありません。したがって、妻は老齢基礎年金78万円を受け取ることができます。
では、2階の年金はどうでしょうか。
まず64歳まで支給されていた中高齢寡婦加算58万円はなくなります。
妻に支給されるのは、自身で作った老齢厚生年金20万円と、遺族厚生年金90万円です。
ただし、すべてが支給されるわけではありません。
妻が自身で作った老齢厚生年金20万円はそのまま支給されます。
しかし、遺族厚生年金は90万円ではなく、老齢厚生年金20万円を差し引いた70万円になります。
考察
夫死亡時の妻は55歳で第3号被保険者でした。
国民年金は60歳までが強制加入期間なので、妻は60歳になるまで国民年金第1号被保険者として国民年金保険料を納めることになります。
60歳までの5年間、国民年金保険料を納付することで65歳から78万円の老齢基礎年金を受け取ることができます。
では、妻が厚生年金に加入したらどうなるでしょうか。
厚生年金保険料は、老齢基礎年金にも、老齢厚生年金にも反映をします。したがって老齢基礎年金に関しては、国民年金加入の場合と同じ効果が見込まれます。
老齢厚生年金はどうでしょうか。厚生年金に加入すれば老齢厚生年金の額は増えます。
では仮に妻が55歳から60歳まで、厚生年金(年収240万円)に加入したらどうなるでしょうか。
5年間の加入で老齢厚生年金は約7万円増えます。元は20万円の厚生年金が、27万円になるのですから、この点では効果があります。
しかし、実際の支給額はどうでしょうか。
厚生年金に加入しない場合の遺族厚生年金 | 70万円 | 90万円‐20万円 |
厚生年金に加入した場合の遺族厚生年金 | 63万円 | 90万円-27万円 |
この事例だと、老齢厚生年金を増やしても、その分、遺族厚生年金が減らされてしまいます。結果として、妻の2階の厚生年金は90万円のままです。
この事例では、妻が厚生年金に加入したとしても、65歳からの年金額に変化のないことがわかります。
もちろん、厚生年金に加入するほどの仕事をすれば年収も多くなり、貯蓄に回せる額も増える可能性があります。
したがって、厚生年金に入ることが無駄というわけではありませんが、老後の年金は増えないので考える余地はありそうです。
遺族の年金は複雑です。また、遺族の年金と老後の年金の組み合わせも複雑です。
この事例では妻が厚生年金に入るのは、少なくとも年金上は得策ではないとご紹介しましたが、実際は人それぞれです。
夫死亡後、第3号被保険者だった方が厚生年金に加入する可能性は低いかもしれませんが、厚生年金に加入するようであれば事前に年金事務所でのご相談をお勧めします。
※ 年金事務所は原則予約制です。
遺族給付を受給中の場合の年金を増やす方法
老齢基礎年金の額をできるだけ多くしておく
厚生年金の加入は慎重な検討が必要
まとめ
この記事では、おひとり様の老後資金のため年金を増やす方法ということで、50代の方を対象に3つのケースに分けお伝えしてきました。
ご相談の現場でも、おひとり様は老後の心配をされる場合が多いようです。
確かにさまざまな観点から不安を覚える人がいるのは事実ですが、老後の収入の柱となる年金に関しては、おひとり様であっても不利な面があるわけでもなく、普通に増やすことができます。
老後の問題はお金ばかりではないけれど、お金があれば安心感は増していきます。
それぞれの方が置かれた状況で、できれば年金など老後のお金を増やす工夫をなさってください。
老後を安心して過ごすために50代はとても大切な時期になりそうです。