この記事では、社会保険の扶養を外れるタイミングはいつなのかをお伝えしていきます。
ところで、私は1年間に約500人のお客様の年金やライフプランのご相談を承っています。
そこで気づかされるのは、男性と女性ではご質問の内容が異なることがかなりあるということです。
そして、女性からよく聞かれるのが「どのような条件なら扶養のままでいられるんですか」というものです。
このご質問に対して、私はお客様に社会保険の扶養ですか、あるいは税金(所得税・住民税)の扶養ですかとお尋ねします。
ほとんどのお客様は、そこで思考を一時停止します。
ご質問をされる方の多くは、そもそも扶養が2種類あるとは考えていません。
端的に言えば、今のままのパートで働きながら扶養でいたいということから出たご質問なので、そのあたりはあまり考えていないのが実際のところです。
しかし、社会保険の扶養と税金の扶養では、見るポイントがまったく異なります。
社会保険の扶養は、収入で判断をします。税金の扶養は、収入から必要経費等を差し引いた所得で判断をします。
また、社会保険の扶養は収入だけでなく、他にいくつかある要素も関係してきます。
さらに言えば、社会保険の扶養は3つの種類があり、それぞれに年齢の上限が異なってきます。
この記事では、年齢に焦点を当て社会保険の扶養を外れるタイミングはいつなのか。何歳まで社会保険の扶養でいられるのかを簡単にお伝えしていきます。
社会保険の扶養は男性でも女性でもなることができます。社会保険の扶養に性別という要件はありません。
ただ、現実に一番多く見られるのは、会社員の夫と専業主婦の妻というご夫婦です。
そこで、専業主婦の女性が社会保険の扶養を外れるタイミングはいつなのかを、事例でご紹介をしていきます。
ここでの事例は、男性は61歳。60歳で一度退職をしたが、再雇用で社会保険が適用されたまま70歳まで働き続けるという前提。
女性は55歳で、パートタイマー程度の仕事をする可能性はあるものの、自らは社会保険に加入することなく扶養のままでいるという前提とします。
社会保険の扶養を外れるタイミングはいつ
一口に社会保険と言いますが、社会保険には3つの種類があります。
その3種類とは、年金・健康保険・介護保険です。
それでは、それぞれに社会保険の扶養を外れるタイミングはいつなのかをお伝えしていきます。
社会保険の扶養を外れるタイミング 年金
夫は会社員で厚生年金に加入をしています。扶養をされている妻は、国民年金第3号被保険者になります。
ところで、厚生年金に加入している夫は、国民年金法という法律では第2号被保険者とされています。
夫は年金制度の中では、厚生年金被保険者と国民年金第2号被保険者という、2つの立場を有しています。
夫が国民年金第2号被保険者なので、扶養されている妻は国民年金第3号被保険者になります。
国民年金の強制加入は60歳までです。
そのため、第3号被保険者である妻は、夫がこのまま厚生年金に加入していれば、60歳まで第3号被保険者でいられて、第3号被保険者で国民年金の強制加入の期間を終えると考えます。
ところが、ここに落とし穴があります。
もう一回、夫の立場を確認すると、夫は厚生年金被保険者であり、国民年金第2号被保険者です。
この2つの立場には年齢の上限があり、厚生年金は70歳までが強制加入とされているので、70歳まで働き続けようと考えている夫はずっと厚生年金被保険者になります。
しかし、国民年金第2号被保険者は異なります。
自営業者などの第1号被保険者や、この妻のような第3号被保険者は、60歳で強制加入が終わるのに対して、第2号被保険者はその資格が65歳まで続きます。
第1号被保険者や第3号被保険者よりも年齢上限が高いとはいえ、第2号被保険者は厚生年金の年齢上限よりは5年も早く資格を喪失します。
したがって、夫は65歳になるまでは厚生年金被保険者と国民年金第2号被保険者の立場を有するものの、65歳以降は厚生年金被保険者の立場だけになります。
では、このご夫婦はどうなるのでしょうか。
夫は65歳になるまでは第2号被保険者なので、そこまでは妻も第3号被保険者でいられます。
しかし夫が65歳になると、6歳年下で59歳の妻は第3号被保険者の資格を喪失します。
この場合の妻は、その後60歳になるまでは第1号被保険者として、自ら国民年金保険料を納付することになります。
第3号被保険者は、国民年金保険料を支払わなくても納付したとみなされます。
一方、第1号被保険者は国民年金保険料の納付義務が発生し、仮に1年間支払うと約20万円にもなります。
第3号被保険者も第1号被保険者も受け取るのは65歳からの老齢基礎年金で、年金額計算の方法も同じです。
第3号被保険者は保険料負担は0円、第1号被保険者の保険料負担は1年で20万円。
これだけ保険料負担に差があっても受け取れる金額は同じなので、年金の扶養である第3号被保険者のメリットは相当に大きなものと言えそうです。
最近では、65歳を過ぎても厚生年金に加入を続ける人も多くなっています。しかし、年の差がある夫婦は、こうした点に注意が必要です。
社会保険の扶養を外れるタイミング 健康保険
この場合は、それほど心配する必要はなさそうです。
夫は健康保険に70歳まで加入を続ける予定です。
健康保険の年齢上限は75歳になるまでで、75歳以降は長寿医療制度(後期高齢者医療制度)に移行をします。
夫は退職するまで健康保険に加入をします。
では妻はどうでしょうか。
妻の健康保険の扶養の上限も75歳です。夫が70歳で退職したとき、妻は64歳。
2人とも健康保険の年齢上限を下回っていて、妻は夫が退職するまでは夫の扶養のままでいることができます。
また、健康保険の場合、退職をしても一定要件を満たせば「任意継続制度」を利用することができます。
任意継続制度は最長で2年間の利用にとどまりますが、妻はこの間も扶養を継続することができます。
任意継続制度の利用については、その他にも考えなければいけないことはありますが、妻が扶養のままでいられるというのはメリットと言えそうです。
社会保険の扶養を外れるタイミング 介護保険
介護保険は40歳以上の方が加入する保険制度です。
介護保険には種別があり、40歳から65歳になるまでは第2号被保険者、65歳以降は第1号被保険者になります。
また、保険料について第2号被保険者は健康保険料の中に組み込まれ、第1号被保険者は自らの年金から差し引かれます。
このご夫婦の事例を考えると、夫は65歳になるまでは健康保険料の中に介護保険料が入っていて、65歳以降は年金から介護保険料から差し引かれます。
妻の場合も同様で、夫が70歳で退職をする64歳までは、直接に介護保険料を負担する必要はありません。
妻の場合、65歳になるまでの1年間が問題になります。
夫が退職して健康保険の任意継続を選べば、引き続き介護保険料を負担する必要はありませんが、だからといって任意継続保険料にその分が上乗せされ増えるわけではありません。
一方、国民健康保険はどうでしょうか。
健康保険と異なり、国民健康保険に扶養・被扶養という概念はありません。
そのため、退職後に国民健康保険を選ぶと、妻の介護保険料も計算され国民健康保険税(料)に上乗せをされます。
仮に妻の収入がまったくないとしても、介護保険料は低額とはいえ算出されます。
その後、妻は65歳になると介護保険第1号被保険者となり、妻の介護保険料は妻自身の年金から差し引かれます。
まとめ
この記事では「社会保険の扶養を外れるタイミングはいつ」ということで、年金・健康保険・介護保険の年齢上限をお伝えしてきました。
ところで「今は夫の扶養に入っているけど、間もなく社会保険に入る予定です。私が社会保険に入ったら夫の厚生年金保険料や健康保険料は安くなるんですよね。」というご質問を受けることがあります。
私が、「ご主人の社会保険料は今までと変わりませんよ」とお答えすると、ほとんどのお客様は驚かれます。
年金・健康保険・介護保険など社会保険の保険料は、働かれている人(この場合は夫)の給与や賞与だけで決まります。
独身でも、配偶者がいても、給与や賞与が同じであれば負担する保険料は同じです。
言い換えると独身の方は、他の人の扶養の分も社会保険料も負担しているということになりますが、これが社会保険の基本的な考え方なので仕方ないのかもしれません。
今、ご紹介した通り、ご質問をされた奥様が自身で社会保険に加入しても、ご主人の給与や賞与に変化がなければ、ご主人が負担する社会保険料に変わりはありません。
今回、社会保険の扶養を外れるタイミングはいつということで、様々なことを書いてきました。
基本的には、年金の扶養は60歳、健康保険の扶養は75歳、介護保険の扶養は65歳という理解で問題はありませんが、事例でご紹介した通り「年の差夫婦」はちょっと注意が必要かもしれません。