令和元年10月1日に消費税率が10%に引き上げられました。その引き上げと共に始まったのが年金生活者支援給付金制度です。
年金生活者支援給付金は、年金を含めても所得が低い方を対象に、年金に上乗せして給付金が支給される制度です。
この記事では、年金生活者支援給付金制度の対象や期間などのあらましを簡単にご紹介していきます。
なお、年金生活者支援給付金は大きく分けて次の3つがありますが、1を中心にご紹介し、2と3は補足的にお伝えします。
1 高齢者への給付金(老齢年金生活者支援給付金・補足的老齢年金生活者支援給付金)
2 障害年金生活者支援給付金
3 遺族年金生活者支援給付金
目次
高齢者への給付金
年金生活者支援給付金制度の中でも、高齢者への給付金は老齢年金生活者支援給付金と補足的老齢年金生活者支援給付金の2種類があります。
最初に老齢年金生活者支援給付金、次に補足的老齢年金生活者支援給付金のあらましをご紹介します。
老齢年金生活者支援給付金のあらまし
老齢年金生活者支援給付金の対象
老齢年金生活者支援給付金は、次の3つの要件をすべて満たす人に支給されます。
① 65歳以上の老齢基礎年金の受給者であること。
② 前年の公的年金等の収入金額と、その他の所得(給与所得や利子所得など)の合計額が老齢基礎年金満額相当以下であること。
③ 同一世帯の全員が市町村民税非課税世帯であること。
※ 公的年金等の収入金額に、障害年金や遺族年金は含まれません。
※ 老齢基礎年金満額相当額は毎年度改定されます。なお、年度は毎年8月から翌年7月までの1年間で、令和2年度(令和2年8月~令和3年7月)の老齢基礎年金満額相当額は779,900円です。
※ 上記の年度について8月~翌年7月が、10月~翌年9月に変更されます。(令和3年8月施行)
対象者の3つの要件のうち、最大のポイントは①です。
①を分解すると、65歳以上であること、老齢基礎年金の受給者であることの2つになります。
老齢基礎年金の支給開始は65歳ですが、60歳から繰上げて受給することができます。しかし、老齢年金生活者支援給付金の対象はあくまでも65歳以上です。
一方、老齢基礎年金は66歳以降に繰り下げて受給することができますが、繰り下げをしている間は受給者ではないため給付金の請求はできません。
また、老齢年金生活者支援給付金は名称のとおり、老齢基礎年金の受給者であることが要件なので、いわゆる「無年金」の人は支給対象になっていません。
老齢年金生活者支援給付金の給付額
実際に給付される額はどの程度になるのでしょうか。
老齢年金生活者支援給付金には基準額があり、毎年度、物価変動に応じて見直しされます。
令和2年度の給付基準額は1ヶ月5,030円ですが、状況に応じて金額の増減があり、給付額の計算式は次のとおりとなっています。
給付額の計算式(①と②の合計額を支給)
① 保険料納付済期間に基づく額 | 5,030円×保険料納付済月数/480月 |
---|---|
② 保険料免除期間に基づく額 | 10,856円×保険料免除月数/480月 |
※ 金額は令和2年度(令和2年8月~令和3年7月)の場合。
※ 10,856円は全額免除・4分の3免除、2分の1免除の場合の金額。4分の1免除は5,428円で計算。
給付額の計算事例1 保険料免除期間がない場合
ⅰ 保険料納付済期間480月の場合 | 5,030円×480月/480月=月額5,030円 |
ⅱ 保険料納付済期間120月の場合 | 5,030円×120月/480月=月額1,258円 |
給付額の計算事例2 保険料納付済期間と保険料免除期間がある場合
ⅲ 保険料納付済期間240月・保険料免除期間240月の場合 | 5,030円×240月/480月=2,515円 10,856円×240月/480月=5,428円 2,515円+5,428円=月額7,943円 |
計算事例のまとめ
ⅰは、全期間国民年金保険料を納付した人です。
この場合、老齢基礎年金は満額になるので、老齢年金生活者支援給付金の給付額は給付基準額になります。
ⅱは、10年(120月)の納付済期間があるので老齢基礎年金を受け取ることができます。
しかし老齢基礎年金の額は満額の方に比べると4分の1の額になります。老齢基礎年金の額が少ないのだから、給付額は多くなると言いたいところですが、実際の給付額は給付基準額の4分の1になります。
老齢年金生活者支援給付金は、国民年金保険料をしっかりと納付した方に手厚く、未納が多かった方に対する金額は低いという特徴があります。
ⅲは、保険料納付済期間240月だけであれば給付額は少なくなりますが、保険料免除期間240月を有しています。
保険料免除は、原則として申請をして承認を得なければ受けられません。
でもⅱの事例のように単なる未納とは異なり、ⅲは支払いが厳しいからと申請をして承認を受けてのことなので、単価は納付済期間よりも高く設定をされています。
老齢年金生活者支援給付金に限りませんが、国民年金では未納は最悪。「払わない」ではなく「払えない」方はむしろ免除制度を積極的に利用していきたいところです。
補足的老齢年金生活者支援給付金のあらまし
老齢年金生活者支援給付金の所得要件を満たさない場合でも、前年の公的年金等の収入金額と、その他の所得額の合計額が約88万円までの人に対しては、補足的な給付が支給されます。
給付額は所得の合計額が多くなるに従い少なくなります。
これは、老齢基礎年金と老齢年金生活者支援給付金を受けられる人と、老齢基礎年金だけを受け取る人との所得合計が逆転しないようにするための措置です。
障害年金生活者支援給付金・遺族年金生活者支援給付金
支給要件
① 障害基礎年金・遺族基礎年金の受給者であること。
② 前年の所得が4,621,000円以下であること。
※ 障害年金・遺族年金等は非課税収入になるので、上記の所得には含まれません。
※ 所得は扶養親族の数に応じて増額されます。
給付額
障害基礎年金2級・遺族基礎年金受給者 | 月額5,030円 |
---|---|
障害基礎年金1級 | 月額6,288円 |
※ 給付額は物価変動に応じて、毎年度改定されます。
年金生活者支援給付金制度の留意事項
年金生活者支援給付金の請求
ⅰ 年金生活者支援給付金を受け取るには請求書の提出が必要です。提出先はお近くの年金事務所です。
ⅱ 請求書の審査は日本年金機構が行います。審査結果の通知も日本年金機構より届けられます。
ⅲ 老齢基礎年金を請求する方は、同時に給付金の請求を行います。この場合、老齢基礎年金の年金証書の後に、給付金の審査結果通知が送付されます。
ⅳ 年金生活者支援給付金は請求した月の翌月分からの支給です。請求が遅れてもさかのぼることはありませんので、該当する方は速やかなお手続きをおすすめします。(令和2年度に新たに支給対象になる方については、令和3年1月31日までに認定請求をした場合、最大で6か月間遡及が認められる特例があります。)
年金生活者支援給付金の手続き書類
年金生活者支援給付金を受け取るには請求書の提出が必要ですが、課税証明等などの添付書類は不要です
これは日本年金機構が市町村から提供される所得情報等で判定することができるためです。
ただし、未申告など所得情報などを確認できない場合は、書類の提出が必要になることもあります。
年金生活者支援給付金の継続
年金生活者支援給付金を受け取るには請求書の提出が必要ですが、要件を満たしていれば次年度以降の手続きは原則として不要です。
これは、前述と同様、日本年金機構が市町村から提供される所得情報等で判定することができるためです。
仮に要件を満たさない場合は、「年金生活者支援給付金不該当通知書」が送付されます。
年金生活者支援給付金の支払い
年金生活者支援給付金の支払いは、公的年金と同じで、原則として偶数月の15日に前々月分と前月分が振り込まれます。
偶数月の15日が、土曜日・日曜日・祝日など金融機関が閉まっている場合は、直前の金融機関営業日に振り込まれます。
なお、公的年金と年金生活者支援給付金は別々の振り込みになりますが、公的年金も年金生活者支援給付金も同一口座であることが要件になっています。
年金生活者支援給付金の改定
年金生活者支援給付金の額は、毎年度、物価変動による改定があります。ただし、この年度は8月から翌年7月までの1年間になります。【年度の8月~翌年7月は、10月~翌年9月に変更されます。(令和3年8月施行)】
日本年金機構が確認するのは市町村の所得情報ですが、この確認ができる時期に合わせるためのものです。
なお、給付額の改定が行われた場合は、「年金生活者支援給付金額改定通知書」が送付されます。
年金生活者支援給付金の不支給
年金生活者支援給付金は次のいずれかに該当する場合、支給されません。
① 日本国内に住所がないとき。
② 年金が全額支給停止のとき。
③ 刑事施設等に拘禁されているとき。
なお、①と③に該当するときは届出が必要です。
その他
ⅰ 年金生活者支援給付金に要する費用は全額が国庫負担です。
ⅱ 年金生活者支援給付金の各給付金は非課税です。
まとめ
この記事では、高齢者への給付金(老齢年金生活者支援給付金・補足的老齢年金生活者支援給付金)を中心に、年金生活者支援給付金制度の対象や期間などのあらましをお伝えしてきました。
まず、年金生活者支援給付金制度は単純に公的年金の額が少ない人を対象にしているわけではないということがわかります。
たとえば、年金生活者支援給付金は65歳から老齢基礎年金を受けられる人を対象にしていて、「無年金」の人は対象外になっています。
また、老齢基礎年金を受けられる人であっても、未納の月数が多い人の給付金は少なく、納付月数が少なくてもしっかりと免除申請をして承認を受けた人に手厚いことがわかります。
給付金の額は、基準が年額で約6万円。
老後生活を送る上では決して十分とはいえないまでも、年金制度にしっかりと向き合ってきた人に手厚いというのは良いことではないでしょうか。
ところで、このサイトは「50歳台から考える老後のお金」をテーマにしています。50歳代の方が65歳を迎えるのは、まだまだ先のことです。
また、年金生活者支援給付金制度は始まったばかりの制度です。始まったばかりの制度は頻繁に見直しされる可能性がありますし、給付金の額も毎年度改定されていきます。
年金生活者支援給付金制度はこれからも変更が加えられていくと思われますので、気になる方はその都度、日本年金機構のHPで最新情報をお確かめになってください。