この記事では、加給年金は繰り上げや繰り下げをするとどうなるのかについてお伝えをしていきます。
ところで、私は1年間に500人以上のお客様の年金やライフプラン相談をしています。その中で数は少ないながらも年に数回、あるご質問を承ります。
それは「私の年金は、私の口座に振り込むことはできるんですか?」というご質問です。
私が「ご自身で作った年金は、ご自身の口座以外に振り込まれることはありません。」とお伝えするととても安心をされます。
では、このご質問はどのようなお客様から寄せられるのでしょうか。
ここははっきりとしていて、このご質問をされるのは100%女性です。
年金には、老齢・障害・遺族の3種類の給付があります。
遺族の給付は亡くなられた方のご遺族に対する給付ですが、老齢や障害はご本人に対する給付です。
現在の年金制度は、自分が作った年金は自分で受け取るというのが大原則です。
しかし年金制度は長い歴史があり、昔は「年金は夫婦で作る」と考えられていた時期が長く続き、今でもその一部は残っています。
その一つが、今回ご紹介する加給年金で、そのためか加給年金は「家族手当」と称されることもあります。
冒頭のご質問がどうして寄せられたのかはっきりとわからない部分はあるものの、今でも年金に、ご夫婦で考える部分が残っているのは確かなことです。
加給年金とは
この記事は、「加給年金は繰り上げや繰り下げをするとどうなるのか」をテーマにしていますが、まずは加給年金のあらましをお伝えします。
ただ、加給年金の仕組みは案外と複雑で、しっかりと書くと一冊の本ができるとまで言われています。
そこで今回ご紹介するのは、あくまでも基本的な事例に留まることをご了承ください。
加給年金の支給対象者
加給年金は、配偶者や子がいる場合に支給されます。
配偶者は、女性であっても男性であっても構いませんが、加給年金が支給されるのは圧倒的に男性が多いという特徴があります。
この記事では、加給年金が支給されるのは男性という前提で書き進めていきます。
また、加給年金は配偶者だけでなく、子を対象に支給される場合があります。
しかし年金法で規定されている「子」は、18歳になった年度末(1級又は2級の障害にある場合は20歳未満)までに限定されています。
加給年金が支給されるのは原則として65歳からで、その時の子は「18歳になった年度末」を過ぎていることがほとんどです。
加給年金は子が対象になることもありますが、この記事では配偶者(妻)のみを加給年金の対象として考えていきたいと思います。
さらに加給年金は、障害の年金に加えられることもありますが、この記事では老齢の年金に加算される加給年金に限定をしていきます。
それでは、加給年金のあらましをお伝えしていきます。
加給年金のあらまし
加給年金は、厚生年金の期間が原則として20年以上ある夫に支給されます。
この場合の妻は年下で、厚生年金の期間が20年未満。さらに、夫に生計を維持されていて年収は850万円(または所得が655万5千円)未満です。
加給年金は夫の老齢厚生年金に加えて支給をされますが、加給年金には始まりと終わりがあり、始まりは原則として夫が65歳になってから、終わりは妻が65歳になるまでです。
加給年金は、年の差がある夫婦ほど長く支給されます。
加給年金は繰り上げをするとどうなるの
老齢の給付には繰り上げという仕組みがあります。
老齢基礎年金も老齢厚生年金も原則65歳支給開始ですが、どうしても早くほしいという方のために、60歳以降早期に受け取れるのが繰り上げの制度です。
なお、繰り上げは老齢基礎年金と老齢厚生年金を合わせて行わなければならず、どちらかだけを繰り上げるということは認められていません。
では、老齢基礎年金・老齢厚生年金を繰り上げた場合、加給年金はどうなるのでしょうか。
先ほど、加給年金の始まりは原則として夫が65歳とご紹介しました。
これが答えで、老齢基礎年金・老齢厚生年金を繰り上げしても、加給年金に繰り上げという仕組みはなく、あくまでも法律に定められた年齢(原則65歳)からしか支給されません。
言い方を変えると、繰り上げをすると老齢基礎年金や老齢厚生年金は減額された額が一生続きますが、加給年金には繰上げの仕組みがないため、定められた年齢から減額されることなく支給が開始されます。
加給年金は繰り下げをするとどうなるの
老齢の給付には繰上げとともに、繰り下げという仕組みがあります。
老齢基礎年金も老齢厚生年金も原則65歳支給開始ですが、66歳以降に支給開始を遅らせることができます。
なお繰り上げと異なり、繰り下げは老齢基礎年金と老齢厚生年金を別々に行うことができます。
たとえば、老齢基礎年金は65歳から受け取り、老齢厚生年金のみ繰り下げをする。
逆に老齢基礎年金は繰り下げるが、老齢厚生年金は65歳から受け取る。
もちろん、両方とも繰り下げるということも可能です。
では、老齢基礎年金・老齢厚生年金を繰り下げた場合、加給年金はどうなるのでしょうか。
先ほど加給年金は「家族手当」とご紹介しましたが、「おまけの年金」と称されることもあります。
では、加給年金は何に対する「おまけ」でしょうか。
加給年金は老齢厚生年金のおまけです。
つまり加給年金は老齢厚生年金に加えて支給されるので、仮に老齢基礎年金の繰り下げを行っても加給年金に影響を及ぼすことはありません。
では、老齢厚生年金を繰り下げるとどうでしょうか。
老齢厚生年金は、繰り下げをすることで増額された年金が一生涯続きます。しかし、ここで加給年金の「おまけ」の性格が出てきます。
老齢厚生年金を繰り下げるということは、今は本体の年金は要らないと宣言したことになります。
本体の老齢厚生年金が要らないのであれば、おまけも要らないと判断されてしまいます。
また、繰り下げをすれば本体の老齢厚生年金は増額されますが、加給年金は増額されません。
加給年金が支給される方は、老齢基礎年金の繰り下げは問題ないとしても、老齢厚生年金の繰り下げは慎重な検討が必要です。
まとめ
この記事では加給年金のあらましと、加給年金は繰り上げや繰り下げをするとどうなるのかをお伝えしてきました。
簡単にまとめると、
老齢基礎年金や老齢厚生年金を繰り上げしても、加給年金は法律で定められた年齢(原則65歳)からしか支給されない。
一方、老齢厚生年金を繰り下げすると「おまけの年金」である加給年金も支給されない。
また、老齢厚生年金は繰り下げによって増額された額が一生続きますが、加給年金は増額されることはありません。
加給年金の額は定額です。加給年金は毎年度金額の見直しがあるとはいえ、年額で約39万円。おまけとはいっても決して少額とは言えません。
ただ、加給年金には始まりと終わりがあります。
今回ご紹介した事例は、年上の夫の厚生年金期間が20年以上で、年下の妻の厚生年金期間が20年未満という前提でした。
でも同級生結婚などで年の差がほとんどなかったらどうでしょうか。
たとえば年の差が1ヶ月だとしたら、加給年金は1ヶ月だけの支給にとどまります。このような場合は、加給年金の存在をそれほど意識する必要はないかもしれません。
また冒頭でご紹介したとおり加給年金の仕組みは複雑です。今回、ご紹介したのは実際に多く見られる事例ですが、すべての方に共通して言えることではありません。
はっきりしているのは、本体の年金の繰り上げや繰り下げを考えなければ、加給年金は法律で定まった年齢から支給され、始まりも終わりも法律どおりということです。
この記事では、本体の年金の繰り上げや繰り下げをした場合の加給年金に与える影響についてお伝えをしてきましたが、実際に繰上げや繰下げをしたらどうなるのかについては、それぞれのご家庭でしっかりと検討されることがおすすめします。