私はこれまでに5,000人以上のお客様の年金やライフプランの相談を承ってきました。当然のことながら相談には女性も男性も訪れます。
ところで、年金制度には国民年金第1号被保険者・第2号被保険者・第3号被保険者という3つの種別があります。
この中で国民年金第3号被保険者は、会社員や公務員など(第2号被保険者)に扶養をされている20歳以上~60歳未満の人と規定されています。
第3号被保険者の制度が始まったのは昭和61年4月で、制度が始まったときから「専業主婦の年金」ともいわれていました。
でも、第3号被保険者になるのに女性・男性の別はないので、男性も第3号被保険者になることは可能です。
まずは第3号被保険者の人数と男女の比率をお示ししたいと思います。
第3号被保険者の人数と男女の比率
性別 | 人数 | 構成割合 |
男性 | 11万人 | 1.26% |
女性 | 859万人 | 98.74% |
総数 | 870万人 | 100% |
(厚生労働局『平成29年度厚生年金保険・国民年金事業の概況』より)
最近は、専業主婦・専業主夫という言葉も一般化していますし、実際に男性の第3号被保険者もいます。
ただ実際問題として圧倒的多数を占めるのは女性です。
また、相談を承っていると第3号被保険者期間を有する男性とお会いすることもありますが、男性の場合、第3号被保険者の期間は短い方がほとんどというのが特徴としてあげられます。
そのような背景から、この記事では「第3号被保険者=女性」として書き進めていきたいと思います。
第3号被保険者の年金額
私が相談を承るのは50代の方が中心です。50代の女性の年金相談で最も気になるのは年金額です。
最近は未婚の方も増えています。未婚の方に第3号被保険者期間はありません。
これから書こうとしているのは50代の女性で、現在もご主人がいる、あるいはかつて結婚をしていたことがあったという方です。
年金額は年金加入歴により異なるので、一人一人が受け取る金額も異なります。しかし大雑把であれば、いくつかの類型に絞ることは可能です。
では、50代の女性はどうでしょうか。いくつかの類型があるとはいえ、最も多いタイプは次のような女性です。
・ 学校を卒業して厚生年金に加入したことはあるが、結婚退職をしたので厚生年金の加入期間は数年である。
・ 夫が会社員・公務員だったので結婚退職後は第3号被保険者になっている。
・ 子供が独立をしたので仕事を始めたが、扶養の範囲内で働いており自らが厚生年金に入る予定はない。
少し乱暴なまとめ方かもしれませんが、こうした女性が多いのは事実です。
では、この女性の年金はどうでしょうか。
・ 厚生年金の期間があるので、老齢厚生年金を受け取ることができる。
・ 第3号被保険者期間があるので、老齢基礎年金も受けることができる。
この女性は老齢厚生年金も老齢基礎年金も受け取ることができます。ただし老齢厚生年金の年金額は、厚生年金の加入期間とその間の給与や賞与に基づいて計算されます。
厚生年金の加入期間が短い、若い時の加入だったので給与も低い。このような方の老齢厚生年金の額は低額になります。
また、第3号被保険者の方に未納は発生しないので、加入期間に見合った老齢基礎年金は支給されます。
もっとも第3号被保険者の方が受けられる老齢基礎年金は、一番多い方でも20歳から60歳まで40年間の加入で年額約80万円。こちらも決して高額とは言えません。
そこで一つの事例をご紹介します。
昭和41年4月2日生まれの女性で、厚生年金加入が5年間、第3号被保険者期間が35年間の場合、年金額はどの程度になるのでしょうか。
まず昭和41年4月2日以降生まれの女性の年金の支給開始年齢は、老齢基礎年金・老齢厚生年金とも65歳です。
老齢基礎年金の年金額は満額で約80万円。
老齢厚生年金は加入している間の給与等も関係しているのでばらつきはありますが、5年の加入であれば年間で5万円~10万円程度。
この女性は65歳から老齢基礎年金と老齢厚生年金の合計で年額85万円~90万円程度を終身にわたり受け取ることになります。
女性・男性限らず年金の加入履歴は様々で、受け取る年金額も様々であるものの、総じて女性は第3号被保険者の期間を有していることが多く、年金額は男性と比べて低いことが多いということです。
もちろん例外はあります。
ただ年金相談にはご夫婦で参加されることもありますが、ご主人と奥様の年金額を比較すると、男性が多く女性は少ない。
ご夫婦の年金を比べると、そのような事例が多いのは事実です。
第3号被保険者期間を有する女性の年金額は100万円を下回ることが多い。
公的年金は終身で支給されるという安心感はあるものの年間で100万円程度、月に8万円程度と考えると、やはり老後に不安が残るのは確かなようです。
第3号被保険者期間の長い女性は老後のお金の準備が大切
国民年金第1号被保険者の方は、自身で国民年金保険料を納付する必要があります。
第3号被保険者の方は、ご自身で国民年金保険料を納付していなくても支払ったものとみなされます。
この点に関して言えば、第3号被保険者は恵まれた存在です。
しかし、国民年金第1号被保険者は自身で国民年金保険料を納付する。しかも、支払って受け取れるのは65歳からの老齢基礎年金で、その金額は一番多くても年額約80万円に過ぎない。
そうした背景から、第1号被保険者の方には付加年金・国民年金基金・確定拠出年金個人型(iDeCo)など複数の上乗せ制度が認められています。
では、第3号被保険者の方はどうでしょうか。
第3号被保険者の方は付加年金・国民年金基金の利用は認められていません。
iDeCoについては2017年1月以降、第3号被保険者の方も利用できるようになったものの、拠出できる金額は年額で27万6千円(月額2万3千円)と決して高額とは言えません。
そのことを考えると、第3号被保険者の方が上乗せできる公的制度の仕組みはとても弱いものがあります。
第3号被保険者の期間がある方、しかもその期間が長い方の老齢年金の年金額は決して十分とは言えません。
しかも、上乗せできる公的制度も少なく、支払いできる金額も少ないので、老後のお金を賄うのには不安が残ります。
相談を承っていると「どうしたら良いのか」というご質問を受けることがあります。
そこで、お伝えをするのは、まずはiDeCoの活用です。
ただ、iDeCoに加入できるのは現状60歳までなので、加入期間が短い方にはあまりお勧めできないという難点があります。
次に考えるのが、国が後押しをしている制度です。
具体的に言えば、NISAまたは積立NISAの活用です。何れも主力商品は投資信託ですが、投資信託よりも若干の節税効果があります。
ただNISA・積立NISAにも一定の制約があるので、それが不満という方は投資信託の活用というのもありだと思います。
またそれ以外では、民間の生命保険会社が販売する個人年金商品などもあります。
個人年金商品に節税効果はあまりありません。また、それほどお金が増えるわけでもありません。
ただ積立でお金を貯める習慣が身に着くことは確かなので、利用する価値はあると思います。
第3号被保険者の期間が長い方の年金額は決して多くはありません。しかし、長生きをすれば老後は誰にでも訪れます。
また、この記事では第3号被保険者=女性という前提で記事を書き進めてきましたが、男性と比較すると女性は長生きです。
女性は男性よりも長い老後を過ごす可能性が高いことを考えると、
第3号被保険者(女性)の年金額は少ないし使える公的制度も限られている。
でも、女性の方が老後期間が長くなる可能性は高い。
そのため、上乗せは他の方よりもしっかりと考える必要がある。
お金に多少の余裕がある方は、まずは制度の比較をしていただき、興味があれば加入をしてみる。
そんなことが大切になってくると思われます。