65歳から支給される老齢基礎年金には「満額」という言葉があります。
国民年金は20歳から60歳までの40年間が強制加入の期間ですが、40年間すべて国民年金保険料を支払うと、65歳から満額の老齢基礎年金を受け取ることができます。
ところで、老齢基礎年金の満額は年度ごとに変わってきます。
老齢基礎年金の満額の決まり方については後でご紹介するとして、まずは令和3年度(2021年度)と令和4年度(2022年度)の満額をお伝えしたいと思います。
老齢基礎年金の満額
令和3年度(2021年度) | 780,900円(月額65,075円) |
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令和4年度(2022年度) | 777,800円(月額64,816円) |
令和3年度(2021年度)と令和4年度(2022年度)を比較すると、令和4年度(2022年4月~2023年3月)の老齢基礎年金は、年額3,100円(月額約258円)の引き下げ。
率にして0.4%の引き下げになります。
令和3年度と令和4年度を比較すると、老齢基礎年金の満額は引き下げられています。
目次
老齢基礎年金の満額はどのようにして計算するの
老齢基礎年金の計算式は次のとおりです。
老齢基礎年金の満額(令和4年度は777,800円)
= 20歳~60歳で納付した月数 / 40年間(480月)
老齢基礎年金の満額は、分母480月・分子480月で作ることができます。では、分子に入れることができる月数はどのようなものでしょうか。
国民年金法上、被保険者は3つに分類することができます。
国民年金第1号被保険者 | 20歳以上60歳未満で第2号・第3号以外の人 |
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国民年金第2号被保険者 | 厚生年金に加入する20歳以上65歳未満の人 |
国民年金第3号被保険者 | 20歳以上60歳未満で第2号被保険者に扶養されている配偶者 |
第2号被保険者は、会社員・公務員・私立学校の教職員が該当します。
この方々は厚生年金保険料・長期掛金などを納めているので、老後に老齢厚生年金を受け取ることができます。
また、第2号被保険者で20歳以上60歳未満の方は(給与明細などには書かれていませんが)厚生年金保険料・長期掛金の中に国民年金保険料も含まれています。
第3号被保険者は、自身で国民年金保険料を支払っているわけではありませんが、支払ったことになっています。
このように、第2号被保険者と第3号被保険者に未納は発生しません。
20歳以上60歳未満の第2号被保険者と、第3号被保険者の期間は、上記の分子に加えることができます。
一方、自営業者などの第1号被保険者は、自分で国民年金保険料を支払う必要があるので、20歳~60歳の40年間という期間を考えると、未納が発生することが往々にしてあります。
未納だと分子に月数を加えることができないので、老齢基礎年金の満額を受け取ることができなくなります。
老齢基礎年金の満額を決める要素
老齢基礎年金の満額の決まり方はとても複雑です。ここでは令和4年度の決まり方をできるだけ簡単にご紹介していきたいと思います。
まず、老齢基礎年金の計算は年齢区分で異なります。この年齢区分を「新規裁定者」「既裁定者」と称しています。
新規裁定者は、その年度において67歳以下の方。
既裁定者は、その年度において68歳以上の方です。
現役世代に近い方が新規裁定者、少し離れた方が既裁定者になります。
それでは、老齢基礎年金の満額を決める5つの要素をご紹介します。
1 老齢基礎年金の法定額(780,900円)
2 物価変動率
3 賃金変動率
4 前年度改定率
5 マクロ経済スライド調整率
1 老齢基礎年金の法定額
老齢基礎年金の額(満額)は平成16年の年金法改正で規定されていて、その額は780,900円です。
各年度の老齢基礎年金の満額は、法定額である780,900円と、物価変動率・賃金変動率・前年度改定率・マクロ経済スライド調整率など諸要素を用いて算出します。
2 物価変動率
年金額改定に用いる物価変動率は「前年の消費者物価指数変動率」を用います。この数値は、例年1月下旬に総務省より公表されます。
令和4年度の場合は「令和3年平均の全国消費者物価指数」を用いますが、前年と比較すると、0.2%のマイナス(0.998)になります。
3 賃金変動率
賃金変動率は「名目手取り賃金変動率」を用います。
名目手取り賃金変動率は、前記の物価変動率×実質賃金変動率(平成30年度~令和2年度の平均)×可処分所得割合変化率で求めます。
令和4年度の場合、物価変動率△0.2%(0.998)、実質賃金変動率△0.2%(0.998)、可処分所得割合変化率0.0%(1.000)。
したがって、賃金変動率は、0.998×0.998×1.000=0.996になり、令和4年度の賃金変動率は△0.4%(0.996)になります。
※ 以下、この記事では「名目手取り賃金変動率」ではなく、「賃金変動率」と表記させていただきます。
4 前年度改定率
前年度改定率はその名前のとおり、前年度の改定率です。令和4年度の老齢基礎年金の計算をする際には、この前年度改定率も要素になります。
令和4年度の計算対象になる、前年度改定率は1.000です。
5 マクロ経済スライド調整率
マクロ経済スライド調整率は、少子高齢化によるものです。
保険料を納める人が少なくなり、年金を受け取る方が多くなったことによるスライド率で、年金額を抑制する働きがあります。
マクロ経済スライド調整率の計算要素は、公的年金被保険者数の変動率(平成30年度~令和2年度の平均)と平均余命の伸び率です。
令和4年度の場合、公的年金被保険者数の変動率0.1%(1.001)×平均余命の伸び率△0.3%(0.997)=△0.2%(0.998)になります。
令和4年度の老齢基礎年金の満額の決まり方
年金額改定のルールは平成16年に作られたものですが、令和2年度までは様々な特例を設け、できるだけ年金額の水準を維持するように図られていました。
しかし特例は、年金財政をより厳しくするものであることから、令和3年度以降は本来の法律により近い年金額改定のルールが定められています。
ここでは、令和3年度からの新たなルールに基づく老齢基礎年金満額の決まり方をご紹介します。
新規裁定者と既裁定者の年金額計算式
老齢基礎年金の満額は年度ごとに変わりますが、計算の方法は原則として上記4つの要素で決まってきます。
ところで、毎年度の老齢基礎年金の計算は「新規裁定者」「既裁定者」で異なると書きました。
簡単に言えば「新規裁定者」の老齢基礎年金の満額は賃金変動によって決まります。
一方、「既裁定者」の老齢基礎年金の満額は物価変動によって決まります。
ただし、この決まり方にはいくつかのルールが存在します。
まずは令和4年度の計算要素となる、物価変動率と賃金変動率を再度お示ししたいと思います。
令和4年度の物価変動率 | △0.2% |
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令和4年度の賃金変動率 | △0.4% |
令和4年度の場合、物価変動率は△0.2%であるのに対して、賃金変動率は△0.4%になっています。
賃金変動率がマイナスで、かつ、賃金変動率が物価変動率を下回る場合、年金額は新規裁定者・既裁定者とも賃金変動率によって改定されます。
したがって令和4年度の場合、新規裁定者・既裁定者とも同じ計算式を使って、老齢基礎年金の満額を算出することになります。
なお、賃金や物価による改定率がマイナスになった場合、マクロ経済スライドによる調整は行われません。
したがって、令和4年度の老齢基礎年金満額の計算式からは、物価変動率だけでなくマクロ経済スライド調整率も除外されます。
原則的ルールのとおり「新規裁定者」の年金額を賃金変動、「既裁定者」の年金額を物価変動で決めたとします。
そうすると令和4年度の場合、新規裁定者の年金額は△0.4%の減額になるのに対して、既裁定者の年金額は△0.2%の減額にとどまります。
現役世代に近く支出も多いであろう新規裁定者の減額が大きく、現役世代に遠い既裁定者の減額が小さいと、世代間の不公平感が助長されるため、こうした仕組みが設けられています。
令和4年度の老齢基礎年金の満額の計算式
老齢基礎年金の満額の計算式は次の通りです。
老齢基礎年金の法定額(780,900円)×改定率
令和4年度の場合、前述のとおり物価変動率やマクロ経済スライド調整率は、除外して計算します。そうすると改定率は次の計算式で求めることができます。
賃金変動率(0.996)×前年度改定率(1.000)×=0.996
したがって、
老齢基礎年金の法定額(780,900円)×改定率(0.996)≒777,800円
になります。
まとめ
この記事では、令和4年度の老齢基礎年金の満額はいくらになるのかをお伝えしてきました。
令和3年度と令和4年度を比較すると、金額では年額3,100円の減額、割合では0.4%の引き下げになります。
年金相談をしているとお客様から「年金額は毎年下がっていくんでしょ」というご質問を度々承ります。
令和4年度はその通りとなりましたが、必ずしも年度ごとに年金額が下がっていくわけではありません。
ただ、老齢基礎年金の満額の計算要素の中にはマクロ経済スライド調整率があります。マクロ経済スライド調整率は少子高齢化を背景として年金額の伸びを抑制する仕組みです。
老齢基礎年金の満額は今後も上がる可能性はあります。ただし、マクロ経済スライド調整率の影響で物価や賃金の伸びほどには上がらない。
マクロ経済スライド調整率はまだしばらく続きそうです。老後の年金が老齢基礎年金だけという方は、より自助努力が必要になってきそうです。
令和4年度の場合、マクロ経済スライド調整率は計算対象になっていません。ただし、令和4年度のマクロ経済スライド調整率△0.2%がなくなるわけではなく、さらに令和3年度のマクロ経済スライド調整率△0.1%も未調整分として残っています。したがって合計△0.3%は次年度以降に繰り越しされます。