確定拠出年金は企業型と個人型があります。
この中で「退職」がキーワードになるのは、厚生年金に加入する会社員が加入する確定拠出年金企業型です。
企業年金の一つである確定拠出年金企業型を取り入れる会社は多くなっています。一方、一つの会社にずっと勤め続ける人は少なくなっています。
確定拠出年金企業型を導入する会社は多くても、その会社を退職する可能性も高くなっている。
では、確定拠出年金企業型は退職をしたら解約できるのでしょうか。
答えは「解約できる」です。ただし条件が厳しく解約できないことも多いようです。
この記事では、確定拠出年金企業型を解約できる条件についてご案内をしていきます。
※ 確定拠出年金は発展途上の制度で、これからも様々な法律の見直しが行われる可能性があります。この記事の内容については今後変更される可能性もあります。
確定拠出年金は退職したら解約できるの
確定拠出年金企業型がある会社を退職した後に、解約して受け取るお金を「脱退一時金」と称しています。
脱退一時金の支給要件は、退職時期が2016年12月までと、2017年1月以降では異なります。
ここでは、2017年1月以降に退職された場合の脱退一時金についてお伝えをしていきます。
確定拠出年金企業型に加入していた方が退職をして、脱退一時金を受け取れるケースとしては次の2つがあります。
ケース1 個人別管理資産額が1.5万円以下
確定拠出年金は自らが商品を選び運用する制度なので、掛金よりもお金が増えることもあれば、減ることもあります。
このお金を「個人別管理資産」と言いますが、個人別管理資産額が1.5万円以下の場合、脱退一時金を受け取ることができます。
1.5万円以下では金額が少ないこと、さらに何らかの形で確定拠出年金を続けても手数料等がかかってしまい個人別管理資産額がもっと減ってしまう可能性があること。
そうした背景で、個人別管理資産額が1.5万円以下の場合は、さらに2つの要件を満たすと脱退一時金の受け取りが認められています。
1 確定拠出年金企業型の加入者資格を喪失した日の属する月の翌月から起算して6ヶ月を経過していないこと。
2 確定拠出年金企業型の加入者・運用指図者、または確定拠出年金個人型の加入者・運用指図者でないこと。
1については、脱退一時金の請求には期限があることを示しています。
2については、転職など何らかの理由で確定拠出年金を続けることを選んだ場合、脱退一時金を受け取ることはできないことを意味しています。
ケース2 通算拠出期間または個人別管理資産額が一定以下
脱退一時金は、その名前のとおり一時金の制度です。
したがって「ケース1」で脱退一時金を受け取った方は、その時点で確定拠出年金を解約したことを意味しています。
ただ、ケース1に該当していなくても、ケース2に該当すれば脱退一時金を受け取ることが可能です。
まず、60歳未満の方が厚生年金の資格を喪失したら公的年金制度への加入はどうなるのでしょうか。
国民年金は60歳まで、厚生年金は70歳までが強制加入の期間なので、60歳未満の方が厚生年金の資格を喪失したら改めて公的年金の制度に加入する義務が発生します。
その種類とは
国民年金第1号被保険者 ⇒ 第2号・第3号以外の20歳以上60歳未満の人(自営業など)
国民年金第2号被保険者 ⇒ 会社員・公務員などで70歳未満の人
国民年金第3号被保険者 ⇒ 第2号被保険者に扶養される配偶者で20歳以上60歳未満の人
この中で「ケース2」で脱退一時金を受け取ることができるのは、国民年金第1号被保険者のみです。
国民年金第1号被保険者は国民年金保険料を自分で納付します。国民年金保険料で特徴的なのは、所得に関わらず定額であるところです。
何らかの事情で厚生年金の資格を喪失して、第1号被保険者として国民年金保険料を納付することになった。しかし、収入が減ったため国民年金保険料の納付が厳しくなった。
こんな時にあるのが国民年金保険料の免除制度です。
免除制度には、所得による申請免除や、生活保護を受けたことによる法定免除。さらに、学生や50歳未満の方に対する猶予制度があります。
こうした免除・猶予制度を受けると、国民年金保険料の全部または一部を納付しないことになります。
確定拠出年金は公的年金の上乗せ制度という位置づけなので、本体の国民年金保険料を納付していなければ上乗せの利用も認められないということで、脱退一時金の仕組みが認められています。
※ 国民年金には障害基礎年金を受給している方に認められている「法定免除」もありますが、こちらについては例外的取扱いとされています。
では、ケース2について詳しく見ていきます。
ケース2による脱退一時金の要件
1 ケース1で脱退一時金を受給していないこと
2 国民年金保険の保険料免除者・猶予者であること(一部に例外規定あり)
3 確定拠出年金の障害給付金の受給権者でないこと
4 通算拠出期間が1ヶ月以上3年以下または個人別管理資産が25万円以下であること
5 確定拠出年金企業型または確定拠出年金個人型の資格を喪失してから2年を経過していないこと
上記の1と2については既にご案内したので、ここでは3~5についてお伝えをします。
「3 確定拠出年金の障害給付金の受給権者でないこと」とは、確定拠出年金の給付には老齢だけでなく、障害に該当した場合の障害給付があります。障害給付は確定拠出年金の制度の中で行われているので、こうした方に脱退一時金の支給はありません。
「4 通算拠出期間が1ヶ月以上3年以下または個人別管理資産が25万円以下であること」とは、要件1に該当しなくても加入期間が短い、個人別管理資産がそれほど多くないという場合は脱退一時金の支給を認めるというものです。
確定拠出年金は厚生年金基金や確定給付企業年金から制度移行した場合も多いという特徴がありますが、通算拠出期間とは前の企業年金も含めて計算した期間のことです。
「5 確定拠出年金企業型または確定拠出年金個人型の資格を喪失してから2年を経過していないこと」とは、ケース1の期間よりは長く設定されているものの、一時金の制度なので短期消滅時効が適用されることを意味しています。
まとめ
この記事のテーマは「確定拠出年金は退職したら解約できる?脱退一時金の支給要件とは」でした。
答えは「解約をして脱退一時金を受け取ることはできる」です。ただし、脱退一時金を受け取る要件は案外と厳しいものです。
それは、確定拠出年金は公的年金の上乗せとして設けられた年金制度だからです。
公的年金には強制加入期間があり、その間は任意に辞めることはできません。
したがって、公的年金の上乗せ制度である確定拠出年金も任意に辞めることはできないというのが基本的スタンスです。
ただ個人別管理資産が少ないような場合、将来の公的年金の上乗せにならない可能性が高いので、一定要件に該当すれば脱退一時金が受け取れる仕組みになっています。
確定拠出年金は退職したら解約できないわけではありませんが、その要件は厳しい。むしろ確定拠出年金は続けていく制度と考えておいた方が良いのかもしれません。
なお、確定拠出年金企業型は退職しても解約できない場合はどうなるのか。こちらについては、その後に加入する制度の行き先によって異なります。