この記事では、イデコプラス(iDeCoプラス)のメリット・デメリットを中心に、イデコプラスのあらましをお伝えしていきます。
さて、人生100年時代と言われていますが、この言葉は同時に老後の長期化を意味しています。
また、公的年金はマクロ経済スライドで給付が抑制される傾向にあり、従来よりも老後貧乏・老後破産のリスクが高まりを見せています。
そのため、国が行っているのが「自分年金」作りの推進で、代表的制度としてあげられるのが確定拠出年金です。
確定拠出年金は大きく分けて企業型と個人型があり、個人型についてはイデコ(iDeCo)という愛称がつけられています。
ところで、イデコから派生した仕組みにイデコプラスがあります。もっとも、イデコプラスが始まったのは2018年5月なので、あまり知られていない制度かもしれません。
そこで、この記事ではイデコプラスのあらまし、イデコプラスのメリット・デメリット、そして今後の制度の見直しについてお伝えしていきます。
目次
イデコプラスのあらまし
イデコプラス(iDeCoプラス)は名称のとおり、イデコ(iDeCo)にプラスして自分年金を作る制度です。
では、具体的にはどのような制度でしょうか。
イデコプラスは、中小企業に勤めるイデコ加入者が利用できる制度です。ここでは、中小企業の要件、仕組み、掛金の額などのあらましをお伝えしていきます。
中小企業の要件
中小企業の要件は、次の2つです。
・ 従業員が100人以下であること。
・ 企業が、確定拠出年金企業型・確定給付企業年金・厚生年金基金などの企業年金を実施していないこと。
一般に中小企業は従業員300人以下とされていますが、イデコプラスはさらに規模が小さい企業が対象です。
また、各種企業年金を実施していないことも要件になっています。
イデコプラスは規模が小さく、さらに従業員の自分年金作りを積極的に後押ししていない企業を対象にしています。
ただし、イデコプラスは企業判断だけで制度を導入することはできません。イデコプラスの導入に際しては、労働組合もしくは労働者の過半数を代表する者の同意が必要になります。
イデコプラスの仕組み
イデコプラスは、中小企業に勤める従業員がイデコに加入していることが大前提です。
イデコに加入している場合、加入者自身が掛金を金融機関などの運営管理機関に納付をします。
一方、イデコプラスは従業員の掛金に事業主が掛金を上乗せして、事業主が加入者掛金と事業主掛金をまとめて納付する仕組みになっています。
なお、この場合の加入者掛金は原則として給与天引きになります。
掛金が多くなることで、自分年金が増える可能性はありますが、イデコプラスを実施するについては、次のとおりいくつかの要件があります。
・ 実施に際しては、イデコに加入している従業員の同意が必要。
・ イデコに加入していない従業員に加入を強制することはできない。
・ 事業主掛金だけを拠出することは認められていない。
イデコプラスはあくまでもイデコに付加して掛金を拠出する仕組みなので、従業員の意思が重要視されています。
なお、企業は拠出対象者に職種、勤続期間など一定の資格を設けることもできることになっています。
イデコプラスの掛金
イデコプラスは、従業員の掛金に事業主が掛金を上乗せする制度です。
イデコプラスの掛金は、従業員と事業主の合計で月額5,000円以上23,000円以下と定められています。
この場合、従業員の掛金を0円とすることはできないものの、従業員の掛金よりも事業主の掛金を多くすることはできます。
また、掛金は1,000円単位なので、従業員と事業主はそれぞれ1,000円単位で拠出額を決定します。
なお、掛金については一定の資格ごとに額を設定することができます。
イデコプラスのメリット・デメリット(事業主)
それでは、イデコプラスを導入することでのメリットやデメリットにはどのようなものがあるでしょうか。
まずは、事業主の立場から見ていきたいと思います。
事業主のメリット
イデコプラスを導入することで得られる事業主のメリットは次の3点が考えられます。
1 福利厚生制度になる
中小企業は企業年金を行うのが難しく、福利厚生の面で劣ることが多いという現実があります。
イデコプラスは、各種企業年金よりも規模は小さいながらも福利厚生に資するため、企業イメージをあげることができます。
2 損金に算入できる
事業主が拠出した掛金は損金に算入することができるため、法人の所得を引き下げる効果があります。
3 少額の費用で運営できる
企業が主体的に運営する確定拠出年金企業型は、従業員の口座にかかる管理手数料などは企業が負担することが多いなど、維持管理の費用が掛かってきます。
一方、イデコプラスはあくまでも従業員の掛金の上乗せという仕組みなので、口座管理手数料などの諸費用は原則として従業員負担のままになります。
事業主のデメリット
イデコプラスを導入すると、事業主にはメリットがありますが、デメリットも存在します。
まず、イデコプラスを導入するためには労使合意が必要とされますし、国民年金基金連合会への届け出書類も必要です。
また、制度導入後も定期報告などいくつかの事務処理も発生し、それは継続的に発生します。
事業主のメリット・デメリットの比較
イデコプラスを導入することで、企業の掛金負担が発生し、事務処理負担も継続的に発生します。
ただ総じていえば、他の企業年金を導入するよりも負担は低く抑えられる可能性が高いものと思われます。
何よりも従業員の福利厚生の充実は、企業のイメージアップに有益です。
一つの側面だけでの判断は難しいと思いますが、少なくともイデコプラスの制度は検討する価値はありそうです。
イデコプラスのメリット・デメリット(従業員)
次に、従業員の立場からイデコプラスのメリットやデメリットを見ていきたいと思います。
従業員のメリット
イデコプラスは自らの掛金だけでなく、企業の掛金を使って「自分年金」を作る仕組みです。言い換えるとイデコプラスは自らの掛金を抑えることができる制度です。
イデコプラスの自らの掛金は、全額が「小規模企業等掛金控除」の対象になりますが、掛金そのものは企業が納付します。
そのため、控除処理は事業主が行うことになるため、従業員の手続きは不要になります。
従業員のデメリット
確定拠出年金企業型、確定給付企業年金、厚生年金基金などの企業年金を実施していない企業に勤める、イデコ加入者の掛金上限は月額23,000円です。
企業がイデコプラスを導入しても、掛金上限は同じままです。
企業年金を実施していなくても厚生年金に加入していれば、従業員には老後に老齢基礎年金と老齢厚生年金が支給されます。
自営業の方に比べると公的年金が恵まれているため、イデコもイデコプラスも掛金は低めに抑えられています。
確定拠出年金は自分年金を作るための制度を作るものですが、掛金が少なければ自分年金の額も少なくなる可能性が高くなります。
従業員のメリット・デメリットの比較
イデコプラスは、イデコよりも従業員が負担する掛金が少なくなることは確かなことです。
イデコプラスで作ることができる自分年金が少額にとどまったとしても、従業員は浮いたお金で別の手段を考えることができます。
メリットとデメリットを比較すると、メリットの方が上回るように思えます。
さいごに イデコプラスの制度の見直し
2020年3月に「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法案」が国会に提出され、2020年5月に可決・成立しました。
法律の趣旨は働き方の多様化や、「人生100年時代」を背景とした老後生活の長期化に対応したもので、この記事でもご案内してきた自分年金作りを後押しする内容も含まれています。
イデコプラスが始まったのは2018年5月ですが、歴史が浅いこともあり加入者数は数千人にとどまっています。
そこで今回の法律で示されているのが、イデコプラスの対象範囲の拡大です。
具体的には「従業員が100人以下」という要件を「従業員300人以下」に拡大することで、「公布日から6月を超えない範囲で政令で定める日に施行」するとされています。
今回の見直しは対象範囲の拡大だけなので、どれだけの効果があるのかは不明ですが、少なくとも一歩前進であることは間違いないようです。