厚生年金保険に加入していると、給与や賞与から厚生年金保険料が差し引かれます。
この厚生年金保険料算出の元になるのが、標準報酬月額・標準賞与額、厚生年金保険料率です。
この記事では、標準報酬月額を中心に標準賞与額や厚生年金保険料率、そして厚生年金保険料の決まり方についてお伝えします。
目次
標準報酬月額とは
標準報酬月額は、簡単に言えば毎月の給与です。
ただ給与は1円単位で支給されますが、標準報酬月額は千円単位あるいは万円単位で決定されます。
標準報酬月額は、厚生年金保険料だけでなく健康保険料を算出する場合にも用いられます。ただし、標準報酬月額の区分の数(等級数)は異なっています。
厚生年金保険料の等級数は、1等級から31等級の31区分。
健康保険料の等級数は、1等級から50等級の50区分。
等級が上がるにつれ標準報酬月額も上がっていきますが、厚生年金の31等級は62万円、健康保険の50等級は139万円です。
たとえば給与100万円の会社員の場合、厚生年金の等級は最高の31等級(標準報酬月額62万円)、健康保険の等級は43等級(標準報酬月額98万円)になります。
社会保障の枠の中で支給される公的年金は老後の所得保障という性格を有するので、ずっと高給取りで過ごしてきた会社員でも、年金額はそれほど高くはならないという性格を有しています。
※ 2020年9月1日以降、政令により厚生年金の標準報酬月額の上限が、第31級62万円から第32級65万円へと1等級追加されます。そのため標準報酬月額が63万5千円以上の場合、標準報酬月額は65万円になります。なお、後述する標準賞与額の最高限度額に変更はありません。
標準報酬月額に含まれるもの
では標準報酬月額に含まれる報酬にはどのようなものがあるでしょうか。含まれるものと含まれないものの主なものをご紹介していきます。
標準報酬月額に含まれるもの
基本給 | 日給・週給・月給など |
諸手当 | 残業手当・通勤手当・住宅手当・家族手当・役付手当・勤務地手当・宿日直手当・勤務手当・能率手当・精勤手当・休業手当・育児休業手当・介護休業手当など |
賞与 | 年4回以上支給されるもの |
標準報酬月額に含まれないもの
病気見舞金・災害見舞金・慶弔費など |
解雇予告手当・退職金・株主配当金など |
出張旅費・公債費など |
健康保険の傷病手当金・労災保険の休業補償給付など |
年金相談でも、たまに標準報酬月額に関するご質問がありますが、多くの方が標準報酬月額に含まれるものが案外と多いのに驚かれます。
なお、上記以外に「現物で支給されるもの」についても、標準報酬月額に含まれるものがありますが記載は省略させていただきます。
標準報酬月額を決める時期
残業代などの影響で毎月の給与は変動していくことが多いかもしれません。しかし標準報酬月額は毎月見直しをするわけではありません。
標準報酬月額は見直しの時期がルールで定められています。
資格取得時決定
定時決定
随時改定
育児休業等終了時改定
保険者決定
資格取得時決定
被保険者が資格取得した際の報酬に基づいて決定。資格を取得した月からその年の8月までの各月の標準報酬月額とするものです。
たとえば、新卒で4月に入社した方などが該当します。
※ 6月1日から12月31日までに資格を取得した人は翌年の8月まで適用されます。
定時決定
毎年7月1日現在で使用される事業所において、4月・5月・6月に受けた報酬の総額を3で除して得た額を標準報酬月額とするものです。定時決定は、9月から翌年8月まで適用されます。
会社に勤め続けている人の多くが定時決定により標準報酬月額が算定されます。
※ いずれの月も、支払基礎日数17日(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日)以上であることが条件です。
随時改定
被保険者の報酬が昇給・降給等で固定的賃金に変動があり、継続した3か月間に受けた報酬総額を3で除して得た額が従前の標準報酬月額に比べて「著しく高低を生じた場合」に改定されます。
固定的賃金に変動、継続した3か月間が随時改定のポイントです。
※ いずれの月も、支払基礎日数17日(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日)以上であることが条件です。
育児休業等終了時改定
被保険者からの届出によって、育児休業等終了日の翌日が属する月以後3か月間に受けた報酬の平均額に基づき、その翌月から新しい標準報酬月額に改定するものです。
被保険者からの届出がポイントになります。
保険者決定
資格取得時決定・定時決定による算定が困難なときや著しく不当であるとき、随時改定の算定が著しく不当であるとき、一時帰休による変動があったときなどの場合、厚生労働大臣が算定する額を被保険者の報酬月額として標準報酬月額を決定(改定)するものです。
標準賞与額とは
標準報酬月額に、年4回以上支給される賞与が含まれると記載しましたが、これは頻繁に支給されるものは賞与ではなく給与とするべきだという考えに基づくものです。
一方、年3回以内の賞与は標準賞与額として厚生年金保険料の計算基礎になります。
標準賞与額は、実際の賞与(税引き前)の額の千円未満の端数を切り捨てたもので、上限は150万円です。
賞与が200万円だとしても、標準賞与額は150万円になります。
厚生年金保険料率
厚生年金保険料は平成16年の年金法改正により段階的に引き上げられてきました。
平成29年9月に引き上げが終了したことに伴い、現在の厚生年金保険料率は18.3%で固定されています。
また、厚生年金保険料は折半負担なので、実際に被保険者が負担する厚生年金保険料はこの半分になります。
厚生年金保険料の決まり方
厚生年金保険料は次の計算により算出されます。
標準報酬月額 × 保険料率
標準賞与額 × 保険料率
ここでは、参考として標準報酬月額の一部を抜粋してみます。(詳しくは「日本年金機構」のHPなどをご参照ください。)
等級 | 標準報酬月額 | 報酬の範囲 | 事業主・被保険者の負担額(折半した額) |
1 | 88,000円 | 93,000円未満 | 8,052円 |
2 | 98,000円 | 93,000円以上101,000円未満 | 8,967円 |
5 | 118,000円 | 114,000円以上122,000円未満 | 10,797円 |
10 | 160,000円 | 155,000円以上165,000円未満 | 14,640円 |
15 | 220,000円 | 210,000円以上230,000円未満 | 20,130円 |
20 | 320,000円 | 310,000円以上330,000円未満 | 29,280円 |
25 | 440,000円 | 425,000円以上455,000円未満 | 40,260円 |
30 | 590,000円 | 575,000円以上605,000円未満 | 53,985円 |
31 | 620,000円 | 605,000円以上 | 56,730円 |
まとめ
この記事では、標準報酬月額を中心に標準賞与額や厚生年金保険料率、そして厚生年金保険料の決まり方についてお伝えしてきました
ところで、私が年金相談を承るお客様は50代の方が大半です。
特に会社勤めをする男性の場合、60歳でセカンドライフに入るという方は少数で、65歳または70歳まで働くという方が多くなっています。
現実問題として、60歳以降は給与も賞与も下がるという方が多いのは事実です。
しかし一定割合で、給与は自分の意思で決められるという方もいます。
つまり会社から、60歳を過ぎても働く意思があるのならば今まで通り勤めを続けてほしい。今までと同じように働いてくれるのであれば、給与も今まで通りにするというものです。
こんな時にご質問を受けるわけですが、私の答えは決まっています。
「体力も気力も続くのであれば、給与は高ければ高いほど良い。」ということです。
給与が高いと厚生年金保険料や健康保険料も高くなります。ただ厚生年金に関して言えば、支払った厚生年金保険料が多ければ、その後に受けられる老齢厚生年金も多くなります。
先ほどお伝えした通り、老齢厚生年金は老後の所得保障なので短期間給与が高くても受取額がそれほど増えるわけではありません。
でも、給与が高いということは現時点の年収が高くなることを意味しています。
「体力も気力も続くのであれば、給与は高ければ高いほど良い。」と書きましたが、「まだ年収にこだわりたいのであれば、給与は高ければ高いほど良い。」という言い方をすることもあります。
あとはご本人のお考え次第ですが、このようなご質問をされる方は、まだ年収にこだわっている方が多いように思えます。
私の答えが、お客様の考えを後押しするような場合も多いようです。
※ この記事では会社員の方が加入する厚生年金について書いてきました。現在は、公務員や私立学校の教職員が加入する共済組合も同じ仕組みが使われていますが、一部に異なる部分もあります。