この記事では、老後の収入源の項目と、それぞれを増やすポイントを簡単にお伝えしていきます。
ところで「人生100年時代」という言葉が一般化するとともに出てきたのが、老後2000万円問題です。
また、老後2000万円に派生して出てきたのが老後貧乏や老後破産。どうやら人生100年時代には、ネガティブな言葉が似合ってしまっているようです。
さて、このサイトは「50歳台で考える老後のお金」をテーマにしていて、老後のお金に関しては次のような記事を書いています。
⇒ 老後資金2000万円問題とは!金融庁の報告書を要約してご紹介 では、老後2000万円問題のあらまし。
⇒ 老後資金はいくら必要なの?生活費と共にイベント費用も考えたい では、老後の支出額。
⇒ 老後を迎えるまでの貯蓄の目安を計算事例つきでご紹介します! では老後を迎えるまでに用意をしておきたいお金。
それぞれの視点から老後のお金にまつわることがらをご案内していますが、この記事では一環として、老後の収入源の項目とそれぞれについて考えておきたいポイントをお伝えしていくことにしました。
ぜひ、他の記事と合わせてご覧になってください。
目次
報告書から見た「老後の収入」
老後資金2000万円問題のきっかけになったのは、2019年6月3日付けの『金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」』です。
この報告書の中で、平均的な高齢夫婦無職世帯の収入額は月額209,198円と記されています。
また、内訳は
項目 | 金額 | 構成割合 |
社会保険給付(年金など) | 191,880円 | 91.7% |
その他(勤め先収入・事業収入など) | 17,318円 | 8.3% |
となっています。
報告書で示されたのは、あくまでも「平均的な高齢夫婦無職世帯」なので、一人一人の実情は異なるはずですが参考にはなりそうです。
老後の収入源の項目
報告書では、金額が具体的に示されたものの、項目は社会保険給付とその他の2つだけです。
この記事では、老後の収入の項目についてもう少し細かく分類し、それぞれについて考えておきたいポイントをお伝えしていきます。
収入項目
1 公的年金 | 老齢基礎年金・老齢厚生年金など |
---|---|
2 企業年金 | 厚生年金基金・確定給付企業年金・確定拠出年金・国民年金基金など |
3 個人年金 | 民間の個人年金商品など |
4 就労による収入 | 給与収入・事業収入など |
5 その他の収入 | 不動産収入など |
収入項目別に考えておきたいポイント
それでは上記5項目のうち、1~4について考えておきたいポイントをお伝えしていきます。
収入項目1 公的年金
老齢基礎年金・老齢厚生年金など公的年金は、長い期間、保険料を納付して作られるものです。
言い換えると、短期間で公的年金の金額を増やすことは簡単ではありません。
ただ、公的年金は終身で支給されるという大きなメリットがあり、長生きすればするほど老後収入に対する影響は大きくなります。
昔と比べると、公的年金の金額は抑制されていますが、それでも老後の収入の柱であることは間違いありません。
公的年金を大きく増やすことは難しいとしても、少しでも増やすことを心がけたいところです。
では、公的年金はどのようにして増やすことができるのでしょうか。国民年金と厚生年金に分けてお伝えしていきます。
国民年金を増やす
国民年金は20歳から60歳までが強制加入期間で、40年間国民年金保険料を納付することで65歳から満額の老齢基礎年金を受け取ることができます。
国民年金の金額は満額が上限なので、既にこの金額を作り上げている人は上乗せをすることはできません。
ただ、20歳から60歳までの40年間に、未納などの期間があると老齢基礎年金は満額になりません。
一方、国民年金の強制加入期間は60歳でも、65歳までは任意加入することができるので、60歳の時点で満額になっていない人は、国民年金の任意加入を検討したいところです。
ここでは、2020年の状況で国民年金に任意加入した場合の効果をお伝えします。
2020年度の老齢基礎年金(満額)は、781,700円
781,700円は40年金国民年金保険料を納付して作られた金額です。そこで、満額を40で割ると1年間当たりの金額が算出できます。
満額(2020年度)781,700円 ÷ 40年 = 1年あたり19,543円
たとえば、60歳の段階で39年間国民年金保険料を納付していた方は、60歳から65歳までの間に1年間、国民年金に任意加入をすることで満額の老齢基礎年金を作ることができます。
では、国民年金保険料はいくらになるのでしょうか。
2020年度の国民年金保険料は1ヶ月16,540円なので、1年任意加入することで納付する金額は198,480円になります。
1年間で198,480円の国民年金保険料を支払うと、65歳からの老齢基礎年金は19,543円増えます。
したがって、約10年間受け取ることで支払った国民年金保険料が回収できることになります。(198,480円÷19,543円=10.15年)
今後、国民年金保険料は上がり、老齢基礎年金は下がる可能性もあるので、将来も10年で元が取れるとは断言できません。
それでも、終身で支給される公的年金を増やしておくことは、老後生活を考える上で見逃すことはできません。
なお、国民年金は10年で元が取れるのは大きなメリットですが、それだけでなく支払った国民年金保険料は全額が社会保険料控除の対象になります。
国民年金の任意加入は、老齢基礎年金を増やすだけでなく、節税効果を見込むことができます。
また、国民年金保険料を納付している方は、合わせて付加保険料を納めることができます。
ここでの詳しい説明は省略させていただきますが、付加保険料の額は月額400円と低額なので、合わせて納付されることをおすすめします。
厚生年金を増やす
国民年金の強制加入は60歳までであるのに対し、厚生年金は70歳までが強制加入期間です。
また、公的年金には優先順位があり、厚生年金に加入する人は国民年金に加入することはできません。
最近では、60歳を過ぎても厚生年金に加入を続ける方も多くなっています。
年金相談をしていると、お客様から何歳まで厚生年金に加入するのが得策かというご質問があります。
私は「お客様の、気力と体力が続くのであれば、厚生年金の加入は長ければ長いほど良いですよ。」とお答えをしています。
その理由としては次のようなことがあげられます。
まず、厚生年金に加入を続けているということは、多い少ないは別にしても給与があるということです。
また、厚生年金保険料は給与や賞与によって決まりますが、こちらも金額の多寡に関わらず労使折半です。
さらに老齢基礎年金には満額という考えがありますが、老齢厚生年金に満額という考えはありません。
仮に厚生年金に50年加入すれば、50年分の老齢厚生年金を受け取ることができます。
そして、国民年金に任意加入するよりも、厚生年金に加入する方が、より老後の年金を増やすことができます。
公的年金を増やすポイントのまとめ
公的年金の金額を大きく増やすことは難しいかもしれませんが、終身で受け取れる公的年金を少しでも増やしておきたいのは確かなことです。
では、国民年金・厚生年金のどちらで増やすのが得策でしょうか。
これは明らかに厚生年金です。
厚生年金は70歳まで強制加入なので、増やせる期間が長くとれる。
厚生年金に満額という考え方はない。
厚生年金の方が国民年金より年金額を増やすことができる。
老後の収入はいろいろな要素を含めて総合的に考える必要があり、公的年金もその中に含まれます。
たとえば、遺族厚生年金を受け取っている女性は、無理して厚生年金に加入しない方が良い場合などもあります。
このように、単純に公的年金を増やすことが得策とは言えない場合もありますが、原則的には公的年金を増やすことが老後の生活設計の一助となりそうです。
収入項目2 企業年金
企業年金に明確な定義はありませんが、一般的には厚生年金基金・確定給付企業年金・確定拠出年金企業型が企業年金に位置付けられています。
確定拠出年金個人型(iDeCo)や国民年金基金は企業年金ではありませんが、ここでは企業年金の一つとしてお伝えしていきます。
企業年金はその言葉のとおり、企業が中心になって運営する年金制度です。したがって、従業員の立場で操作ができる余地はあまりありません。
ただ、企業年金に対してはそれぞれに注意をしておきたいポイントがあります。
厚生年金基金は長い歴史を有するものの、企業年金としての役割は大きく減退をしています。
確定給付企業年金は厚生年金基金を小規模にしたようなもので、老後収入として多くを期待できない可能性があります。
自営業者などが加入できる国民年金基金は市場金利に左右されるので、昨今の状況を考えると大きく増やすのは難しいかもしれません。
国民年金基金は長期加入で効果を上げることはできますが、短期間で増やすことは難しいようです。
企業年金はあくまでも公的年金の上乗せという立場です。公的年金を短期間で大きく増やすことは難しいと書きましたが、企業年金にも同じことが言えます。
すでに長い期間、企業年金に加入してきた方は、企業年金からの給付を老後の収入の柱の一つとすることも可能ですが、そうでなければ収入の柱とすることは難しそうです。
このことは確定拠出年金にも言えます。
確定拠出年金は企業型と個人型(iDeCo)がありますが、確定拠出年金は新しい制度で、歴史的には確定給付企業年金とそれほど変わりありません。
ただし、大きく異なるのは国が積極的に制度の後押しをしているという点で、確定拠出年金は公的年金の上乗せとしてはまだ物足りないものですが、どんどんと制度拡充が行われています。
他の企業年金については、現状維持あるいは衰退が見込まれているものの、確定拠出年金はそうではないようです。
企業年金については、特に確定拠出年金の動向に注意し、可能であれば積極的に活用して老後の収入の柱の一つに育て上げたいものです。
収入項目3 個人年金
民間の生命保険会社などが販売しているのが個人年金商品です。
個人年金は老後の収入の柱としては、公的年金や企業年金より劣るものと考えられます。
その理由は主に2つあります。
1 市場金利が低いので、大きくお金を増やすことが難しい。
2 保険料は生命保険料控除が適用されるものの控除できる金額は低額である。
はっきりとしているのは、民間の生命保険会社は営利を目的に個人年金商品を販売しているということです。
公的年金や企業年金よりも公的な側面が薄いだけに効果も限定をされますが、個人年金を否定しているわけではありません。
個人年金に加入をすると、個人年金保険料の負担が発生をします。その支払いは、普段の生活の余裕資金から生まれるものです。
余裕資金があっても貯蓄の習慣がない人は、そのお金を何かに使ってしまいます。
しかし余裕資金から保険料が差し引かれることで、貯蓄の習慣がない人も自動的に貯蓄をしていることになります。
こんな方にとって、個人年金はおすすめの商品です。
また、確定拠出年金などに加入しているが、まだ余裕資金がある方にも個人年金はおすすめです。老後の収入は多いに越したことはありません。
さらにお勧めしたいのが第3号被保険者の方です。
第3号被保険者は自ら国民年金保険料を納付しなくても納付したとみなされるので、65歳から終身で老齢基礎年金を受け取ることができます。
ただし、老齢基礎年金は満額でも約80万円なので、老後のお金としては心細いのも事実です。
また、第3号被保険者の方が上乗せできる制度はイデコだけで、掛け金の額も決して多くはありません。
一方、第3号被保険者の方でもパート程度の仕事をしている方も多いようです。
そこで得られたお金は生活資金になる場合も多いとは思いますが、可能であれば国民年金保険料程度を、個人年金の保険料に振り向けることをお勧めします。
個人年金は老後の収入の柱としては、公的年金や企業年金より劣るものだとしても、加入によるメリットがある人も確実に存在をします。
そうした方は、逆に個人年金への加入を積極的に考えたいところです。
収入項目4 就労による収入
給与収入・事業収入など就労による収入は老後の収入の第一の柱になります。
公的年金や企業年金があっても、金額は就労による収入のほうが多くなる場合が多いようです。
いつまでも働くというのは無理かもしれませんが、それでも可能な限り就労による収入を得るのが得策です。
では、どのように働くか。
会社員など給与収入を得られる方は、原則的には厚生年金の加入を考えたいところです。
厚生年金の加入は、給与や賞与ではなく、働く日数や時間数で決まるので、年収が低くても厚生年金に加入しなければならない場合や、逆に年収が高くても加入できない場合もあります。
ただ、実際問題としては厚生年金に加入するだけ働くのであれば、それに見合った給与収入も得られるのではないでしょうか。
一般的に言えば、給与が高くなれば厚生年金に加入する可能性も高くなり、厚生年金保険料を支払えば将来の老齢厚生年金の額も増えます。
また、給与収入が得られれば老後収入の柱とすることができます。
先ほどお伝えした通り、無理して厚生年金に加入しないほうが得策という方もいます。
ただ、一般論でいえば、就労をすれば給与等が見込める、さらに厚生年金に加入すれば将来の老齢厚生年金の増額も見込めます。
ご自身の体力や気力が続くのであれば、就労は長く続けるのが何よりの得策となります。
まとめ
この記事では、老後の収入源の項目とそれぞれについて考えておきたいポイントを簡単にお伝えしてきました。
老後2000万円問題を契機として、老後を迎えるまでの貯蓄額、老後に得られる収入源、老後に発生する支出額を考える方が増えています。
この記事は、その中で「老後に得られる収入源」にスポットを当てています。
ところで私は年金やライフプランの相談を承っていますが、何よりも中心になるのは「何歳まで働くのか」という話題です。
多くの方が、公的年金や企業年金を老後の収入の柱として必要だという認識がある反面、それだけで老後を過ごしていくのは難しいのではないかと考え始めています。
今後は、老後の収入は就労に対する依存割合が増えていくのは間違いなさそうです。
ただ、就労をするのであれば厚生年金に加入をしたいところですし、確定拠出年金の利用なども考えたいところですし、さらに個人年金の利用も検討をしたいところです。
就労をすれば収入増が見込めるので、それを老後のお金の準備に振り向けていく。それが、50代の方の老後のお金の準備にも結びついていきそうです。